第59話 君のような勘の良いガキは嫌いだよ
電車に揺られ、地元の立川に到着する。
慣れた光景ではあるが、栄えた場所だ。
いくつもの商業施設に囲まれて、近くには昭和記念公園と飛行場があって……と。
住んでいる場所は、ここからしばらく歩いた極普通の住宅街だから、最寄り駅とは思えないほどの異世界感がある。
美冬は、改札を出たときからずっと進の手を握ったままでいる。
どこに行こうか、と進はスマホをいじろうとするが、片手が塞がっていてやりにくい。
変わりに、進がスマホを持って、美冬がそれを操作するという荒業に出る。
「んー、我が家、これ以上モノ増やせないですから……雑貨屋さんは行かないようにしましょう」
「そうだね……見ると欲しくなるし」
「浪費にもなりますからね」
仕送りがあるとはいえ、浪費は避けたい。
およそ2年半後くらいに控えた大出費のために、今から貯めておける分は貯めておく。
「あ、でも、スポーツ屋さん行きたいです」
「スポーツ屋?」
「ちょっとほしいものがありまして……」
そして、デパートのスポーツ用品店へやってきた二人だったが、美冬が真っ先に向かったのは、野球の道具のコーナーだった。
「野球やるの?」
「キャッチボール」
先程、野球部のバッティングセンター(投球はピッチングマシンではなく野球部員)に行ったが、それで面白くなった。
打つ側よりも、投げる側の方が面白そうだった。
「犬のおもちゃで遊ばない代わりに、こっちでなら遊んであげてもいいですよ」
無意識的に、尻尾がパタパタと揺れる。
グローブをとり、手にはめてみる。少し大きいから、また別のをはめる。
ちょうどいいのを見つけたら、今度は主人のを探す。
適当に合いそうなのを渡したら、視線で着けるよう訴えた。
ボールはよくわからないから、とりあえず普通のを適当に選んだ。
グローブ2つと、ボール1つ
早速浪費したが、このくらいなら良いだろう。折半で、小遣いの範囲内だ。意外とグローブが高かった。
デパートの中を歩く途中、洋服屋で寄り道したり、色々見て周り、それとなく満喫出来た。
帰り際、思い出したようにペット用品店へ行く。
「新しいベッド見たいんですよね……」
と、言う理由だ。
ベッドが見たいなら家具屋に行くのが人間なら、ペット用品店へ行くのが狐である。
「今ある土鍋のやつ最近買ったばかりじゃん」
「猫用なだけあって狭いんですよね。今度は犬用かなあ……って思ってるんですけど」
「やっぱ狭かったんだアレ」
「最初は行けるかなあーって思ってたんですけどね……」
本当なら、今すぐ狐の姿になって、この店にあるドームハウスの寝心地を試して回りたいくらいなのだが。
「実家にあるやつ送ってもらえばいいじゃん」
確かに、実家にお気に入りのドームハウスはあった。サイズ、硬さ、フカフカ度、ともに最高だったのだが……。
「と思ってたんですけどね、美夏に奪われたらしいんですよ……」
兄弟姉妹あるあるネタだ。
兄弟姉妹の財産は基本的に共有財産である。
結局、ベッドは決まらずまた今度探すことにした。
店内を色々見て回る。
猫じゃらしを目の前で振られて、本能が疼いたがここは我慢する。
またたびの匂いを嗅がされたが、無心。
どちらかと言えば、犬や猫のおやつの方に心が惹かれている。
豚の耳とか、ジャーキーとか、ちゅーるとか。
特にちゅーる
ネコ用のエサとか食べたら意外と美味かった記憶があるので、ちゅーるも美味いはずだ。
それとなく、マグロ味ちゅーるを手にとってみる。
そして、それとなくレジの方まで歩いてみる。
「みふ待って、それどうする気」
バレた。
「え……美味しいかな……って」
「本気で言ってるの」
「……」
本気だ。
それを目線で訴えてる。
そもそも、飼育されている狐の食事は猫エサだ。美冬も狐だ。何が違うというのだろう。
「みふって、獣じゃないよね、妖怪だよね」
「そうですね」
「狐って虫も食べるよね」
「そうですね」
「でも、みふは虫は食べないよね」
美冬は目を瞑り、ひと呼吸おいた。
「君のような勘の良いガキは嫌いだよ」
そして、出来るだけ低くした声音で言う。
一応、ちゅーるは買った。
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