第147話 反省しているが仕方ないと思っている

「え? なに!? ケントに襲われたことあんのぉ?」

 以前、菊花と進たちが知り合った経緯を話したところ、満里奈がやけに驚いた。


 菊花は以前、ケントに追われているところ進に捕獲されたことがある。そのせいで彼女は大怪我をし、進が保護して治癒したといういきさつがあった。

「でもなんで? 確かにアイツって妖は絶対悪~って思ってて容赦ないところあるけど……」

「オレも知らねえよ? あーでも……なんだろうな、何となく勘違いされたのかなあ……とは思うけど」

 菊花は、その時のことを回想し始めた。

「オレ、アキバのメイド喫茶でバイトしてんだけどよ。まーたまに厄介でキモい客が居んだよ。で、バイトに行く途中に、キモいヤツに顔覚えられててすっげえ絡まれたから、もうマジ気持ち悪くて脅したんだよ。多分、それを見られてて、妖怪が人間襲ってるって勘違いされたんじゃねえかなあ……って思ってる。いや、わかんねえけどよ?」

「脅したってどんな風に?」

「首掴んで雷落とした。周りの人間を数人巻き込んだのは反省しているが仕方ないと思っている」

 話を聞いて、一同黙った。菊花の事情も納得できるし、ケントが退治しようとするのも何となくわかった。彼が一部始終を見ておらず、ただ雷獣が突然雷を落として一般人に危害を加えようとしただけに見えていたとすれば……。


「次からはあ……首掴んで電流流すくらいにしといたらぁ?」

「いやもう二度とあんなキメエオタクに絡まれたくねえし、痛い思いもしたくねえよ」


 菊花は思い出したようで腕をさすった。本気でトラウマらしく、聞いていた3人がこれ以上掘り下げるのをやめようと思った。


「いいや、その雷獣が5、6回落とした雷で7人も怪我してるからね」

 だが、噂のケントがカーテンを開けて立っていた。

「ケント、なんでここに」

「親友の見舞いに来て悪いかい?」

 進が驚いて声を出すが、流れるように返されて、続ける言葉もなかった。

 ケントは一度菊花を見据えると、すぐに視線を逸らす。


「まあ、ソレの事情を鑑みなかったのは反省しよう……。それで? そこにいる満里奈は何をやっているのかい? 人間退治のプロが、今こんな状況で遊んでいられる暇があるとでも?」

「遊んでないよお! これでも仕事で来てるんだよお!」

「事情聴取は情報部の仕事だろう。何をやってるんだ、全く」


 やれやれと肩を竦めた。そして自分が座れるイスとスペースが無いことに気づくと、立ったまま離し続けることに決めた。

「それで、進、体の調子はどうなんだい? 君の魔法があればすぐ治せるだろう」

「ああ、うん、まあ……、ぼちぼち」

「君は今は霞の良い稽古の相手になってるんだ。さっさと治ってもらわないと困るよ」

「努力します……」

「君がその調子だと、その使い魔を借りることも出来なさそうだしね。どうせ四六時中離れないんだろう? 葵なんて、君じゃなく君の使い魔のことを気にしていたほどだ」

「流石の葵さん……。よくわかってらっしゃる……」

「君は、どうにも自分を顧みない戦い方をするからね。治癒魔法が使えるからか、怪我するのもお構いなしに突っ込んでいくし。死んだら元も子もないんだ。君が死んだらその使い魔はどうする? 君にしか扱えないじゃないか。路頭に迷わせるつもりか? 君も召喚術師なら、そういう責任感を持つように。僕に言われなくてもわかってることだろう?」

「ほんと、本当におっしゃる通りで……」


 まさか、ケントが見舞いに来るとは思わなかったことに加え、ここまで説教を食らうとも思っておらず、ただただ進はへこへこと頭を下げるしかなかった。


「なに? ケント、実は進のこと心配だったんだ~?」

「当り前じゃないか。彼は親友だ」

 茶化すように言う満里奈には、若干怒り気味で答えた。

「むしろ君は心配しなかったと? 君にとっても進は友人だろう? だからここに居るんだろう、君は」

「そーだけどぉ……」

「そもそも君たち強襲隊がしっかりと取り締まりを──」


 説教の矛先が満里奈に向けられ、進はなんとも言えない形で救われてしまった。説教と言うか、満里奈もかなり言い返す方なので、だんだん言い合いに変わっていく。

 それを強制的に聞かされる進と美冬、そして菊花もたまったものではない。

 特に、進の場合は気恥ずかしくて居心地が悪くなっていた。


 ふと、美冬が言った。

 こんな風に、数人程度が一気に集まるような状況。本気で心配して来た友人たち。こんなことでも無ければ実感すらしなかっただろう。

「ご主人様、なんだかんだ、友達に恵まれてますね」

 彼女のどこか安心しているような表情に、何か気づいたような気がして、進も頷いて返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る