第148話 慰謝料たんまり搾り取ったあとに殺すしかないですね!
そしてやっと退院の日が来た。
朝乃が運転する車で家まで送られ、数日ぶりに帰宅を果たした。
そして、玄関を開けるといつも通り、美冬による熱烈な出迎えを受けた。
この感覚も久々だな、などと未だ痛む体に突進されても何とか踏ん張り、美冬の頭を撫でる。
普段寄りやけに長く感じる、実際は短い廊下を通って、居間に入ると力が抜ける。家にいる安心感とはこれほどかと、そのありがたみを痛感した。
ローテーブルの定位置に座り込んでだらけてしまう。ずっと休んでいたはずなのに、体力がどこにもない。
「ああ……明日からまた学校か……」
そう考えるとすでに憂鬱だ。家にいるのに「帰りたい」と思うのはこのこと。
美冬は「しょうがない人」という眼差しを向けつつ台所へ向かった。
冷蔵庫からペットボトルのジャスミン茶を取り出し、コップに注ぐと、進の前に置いた。
「ああ……ありがとう」
申し訳程度の礼を聞き流しながら、隣りに座って肩に寄りかかる。
進はもはや気にすることもなく、おもむろにスマホを取り出した。何件か溜まっていたメッセージを確認しているが、殆ど天気予報やニュースの類いだ。
……。
「あの、なんで履歴に初花が居るんですか」
浮気の心配は無さそうだと安心した矢先でコレだ。ニュースとか天気予報とかよくわからない公式アカウントの間に紛れて、見知った女の名前があるのだ。
「初花だけじゃないですね。これ、菅谷とかいうクラスメートのメスですよね? あ、こっちは花燐に美夏ですか。へー? なんで、こんなにメス共からライン来てるんですか?」
「初花ちゃんは普通にお見舞いの代わりで連絡くれて、菅谷は何かあったのかって訊いて来て、花燐さんは……よくわかんない」
美冬の尋問には慣れたように返答して、終いには花燐とのトーク画面を見せてきた。
『病院送りとか草』
この一言のみである。
「いや、草って……」
「こちとら草どころか治療費自己負担な上に親の嫌味が生えてきたんだけどなあ……」
「ははは……」
容易に想像ができる。美冬も叩かれた。
そして花燐の草と、進の母親から嫌味が生えてきたということを聞いたら、追求する気が消失してしまった。哀れみが先行して。
進は仕方がないという感じで乾いた笑いを漏らすが……。確かに仕方が無いとはいえ、こちらが大損して泣き寝入りというワケにもいかない。それは納得がいかない。
となれば、手段は一つしかない。
「……。マジであの正木とかいうメス人間とっ捕まえて慰謝料請求しましょう。民事訴訟ですよ民事訴訟! 東京地裁!」
「ホントにそうだね」
「はっ、でもあの女さっさと死んでほしいんですよね。どっか適当なめちゃくちゃ強い妖怪にちょっかい売って野垂れ死んでたりして欲しいんですよ! でも死んでたら慰謝料請求出来ないじゃないですか!?」
となれば、残された手は
「てことは慰謝料たんまり搾り取ったあとに殺すしかないですね!」
これならば、2つの目的が達成できる。早々に殺す事が難しくなるが、この際だから妥協しよう。
そうと決まれば早速行動に移そうと、美冬は民事訴訟の起こし方を検索し始めた。
「……さて、そのあとどうやって殺しましょうかねー」
この間言ったみたいに、治癒の魔法をかけながら足先から1センチずつ切り落とすか。
火炙りと消火を繰り返しながらじっくり焼くか。
領域制圧魔法で1億年の年月を体感させ精神を崩壊させるか。
などなど、同時に、限りなく大きな苦痛を伴う殺し方を考えるのであった。
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