第66話 頭痛い……
電気を消して、真っ暗な夜中。
気持ちがざわついているせいで寝付けない。
進はすでに寝て、美冬は彼の隣の布団から彼の顔を見る。
特別格好いい顔というわけではない。もっと見た目のいい人間も妖怪も沢山知っている。
寝れなくて、起き上がる。
間抜けな寝顔を覗き込んで、その頬を突っついた。
明日……厳密には今日は文化祭の片付けがあるから、休日無しの10連登校。生徒も先生も大変だ。
それに付き合わされる保護者も大変。
ただ、明後日、厳密には明日は休み。ようやく休める。
「ごしゅじんさまあ〜」
呼んでも返事は無い。
これ幸いと、寝込みを襲う。
唇に唇を押し付けてみたり、舌をちろりと這わせてみたり。
無機質な味がするだけ。
だが虚しい。反応があるわけでもなく、ただただ虚しい。
いつも感じる多幸感も、体が溶けるような気分も無い。
寂しくなって、彼の体に跨ったらそのまま寝そべった。
心臓の音が直に聞こえてくる。
何となく、このまま起きてくれないかと願う。起きたら、かまってくれるかもしれない。
なんでもいい。
ただ構って欲しい。相手をしてほしい。
夕方、何で自分があんなことを言い出したのか今でもわからない。
本当に疲れていたのかもしれない。
気持ちが焦っていたのかもしれない。
焦る必要はあるだろうか。本当はない。無いはずだ。そもそも何に焦るのか。焦る対象がハッキリしない。
「頭痛い……」
つい、呟いていしまう。昼過ぎから頭痛が酷い。
「大丈夫……?」
微かな声が、すぐそばから聞こえた。
進だ。
起こしてしまった。
突然体の上に乗られれば、起きないほうがあり得ないか。
だが、それに気付いても返事の言葉が見つからない。
体をずらし、布が擦れる音を聞き取りながら、上から隣に移動する。
枕の空いているスペースに頭を載せた。
大丈夫じゃない気がする。
辛いし、しんどい。
進は、ほとんど寝ていて、目も開いていない。
美冬は、急に寂しくなる。
今一度口付けをして、それを紛らわす。
ザラザラとブヨブヨが同居した、変な舌触り。舌の表面はこれだから、あまり好きじゃない。
逆に舌の裏は柔らかいから、こっちのほうが良い。
ただ、何となく不満が残る。
受け入れられてはいるが、相手をされている気にはなれない。
「ご主人様、起きて……ください」
不満というよりも、寂しさ。
気付いたら声に出ていた。言うつもりはなく、その後に困る。
明日学校なのに。休みがなくて疲れているだろうに。
自分は何を言っているんだろう。
と言うか、自分は何をしていたんだろう。
寂しさに身を任せて、主人の寝込みを襲う。噂に聞くペットの猫と全く同じ行動だ。
ただ、そうやって冷静に考えて罪悪感を抱いても、焦燥感は燻ったままでいる。
自分は何に焦っているのか、なんて明らかだ。
性根の悪い妹が言っていたことに、何を焦っているのか。
本人が一応否定していることに、疑いを持っているのか。
馬鹿な話で、ネガティブな方向に物事を考える。
やめよう。
頭が痛い。
具合が悪いから、気持ちが滅入っているだけだ。
とにかく、寝よう。
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