第92話 好感度120%の北条さんは俺のためなら何でもしてくれるんだよな……
もきゅもきゅ抹茶みりゅくと萌え萌えこ~し~が金髪ツインテール巨乳メイドこと菊花によって運ばれてきた。
両方とも、普通のカフェで出されるよりもトッピングなどが(値段相応に)豪華だ。
「では、ご主人様のテスト明けと冬休みにってことで」
美冬がグラスを両手で持って、それに倣って進もグラスを持ち「うい~」「うぇ~」とだるい声でグラス同士近づけ、カンという音も出ないくらいに軽く当てて乾杯した。
抹茶をストローで混ぜてフレーバーと冷たさを均一にして、ストローに口をつけ、吸う。
甘ったるい抹茶の香りとミルクの若干の粘っこさが舌に当たる。
それと、不思議な何かを感じる。なにか隠し味でもあるかのような。
「どう、美味しいの?」
美冬が不思議そうに抹茶ミルクの液面を眺めているところ、進が訊いた。
「もきゅもきゅしてんの?」
「……そう、それです、もきゅもきゅしてるんです」
メニューの名前にあったもきゅもきゅ抹茶みりゅく。みりゅくは置いといて、もきゅもきゅとは間違いではないということか。
だがここで、少年にとある疑問が沸いた。
「もきゅもきゅって何……」
もきゅもきゅとは、小動物などを形容する時に使われる言葉であるが、これが飲み物に当てはまるなど想像もできない。
美冬は彼に無言でソレを差し出し、そして彼は受け取った。
ストローを咥えて、恐る恐る吸ってみる。
よくある抹茶ミルクないし抹茶ラテの風味を味わいながら、確かにそれはやってきた。
「もきゅもきゅしてる……」
「ですよね、もきゅもきゅですよね」
「うん……これは……もきゅもきゅ……」
とりあえず抹茶は返却して、やっと自分のコーヒーを飲める。
こちらは割とド・ノーマルなモノで、安心というかちょっと寂しいというか。
「そういえば、もきゅもきゅで思い出したんですよ」
「なにを?」
「もきゅさんっていうイラストレーターが居るんですけどね、その方が表紙とか挿絵描いてるラノベあるんですよ」
「へー」
サブカル狐の情報の幅は広い。おおよそ、SNSで回ってきたという感じだ。
「えっと確か『好感度120%の北条さんは俺のためなら何でもしてくれるんだよな……』っていう小説だったと思うんですけどね」
「なんか最近の小説って何でも題名長いな……」
「タイトルで内容わかるようにしてるんですって」
「へー」
知識の範疇外だと反応が単調になっていく。
「読んでないからよくわからないんですけど、主人公が他人の自分に対する好感度が数値で見えるんですって。ちょっといいなーって思いません?」
「ええ……それ低かったら心折れない?」
「少なくとも美冬のご主人様への好感度は180%ですから大丈夫ですよお~。美冬以外の人間に愛される必要なんか無いんですから、ね?」
「まあ、それは確かにそうなんだけど……まあ、いいか」
否定をする気にはならない。いろいろな意味で。
「じゃあ、みふは? 俺の好感度見れたらどうする?」
「低かったら死にます」
「まーまー、見られても死なせないくらいには高い好感度維持してるから安心してよ」
「具体的には?」
何気に答え難い質問だ。そもそも、そして種類やカタチが定まらず、絶対的にも相対的にも比較のしようが無いもので、そして下限と上限が存在しえない「好感度」なるものを数値化できるかというといささか疑問の余地がある。
そして、彼女が提示した数字よりも高くすべきか否か、そこで彼女の機嫌が左右される。
すべては進の判断に委ねられた。
「じゃあ180くらい」
結局彼女と同じ数字を提示した。
「……」
だが彼女こそ反応に困りかけている。低いのか低くないのか。そもそも質問自体が地雷だった感は否めない。
「6.02かける10の26乗パーセント」
だから、進はもう一つの数を言った。無量大数とか言っても面白くない。なにか意味のあるなかで大きな数字として、一番身近に知っているものをあげた。
「え……なんですかそれ……」
「1キロmolに含まれてる原子の数。1molの中だと23乗になる」
「え?」
美冬はそれを数字であることを理解していない。
「めっちゃ多いってこと」
化学で使われるのは23乗だが、熱力学では26乗のほうが使われる。
出来るだけ大きな数字を使ったのはシャレだ。
非常に大きな数字だ。10の何々乗と言われてもピンとこないだろう。
だが、理解されなくてもそれで良い。照れ隠しという意味で。
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