第150話 ぶちのめすぞメンヘラ貧乳

「あぁぁああぁぁ……」


 お腹が空いた。

 動く気にもならない。

 掃除と洗濯もしなければならない。

 買い物は……進が学校帰りにしてくると言う。先日の事があって、外に出ると危ないから云々。見舞いに行くために電車とか乗っているのだから今更だという話だ。心配されている分には気分が良いから従っているが。

 

「ぁぁぁ……」


 今の美冬は、究極にやる気が無い。

 寝転がってソシャゲで周回しガチャ石を集めつつ、チュールを吸いながらおおよそ狐とは思えぬゾンビ声で唸っている。


 だがチュールでは空腹は満たされず、吸いながらお腹空いたとほざいている状況である。


 進が入院している間は緊張感を原動力に動いていたが、退院して彼が学校に行った瞬間、一気にダルさが襲ってきた。疲れが溜まっていたのか。

 現在、彼女の脳内を埋めているのはその倦怠感と寂しさのみ。

 

 一旦ソシャゲを止めて『やる気を出す方法』と検索してみると「とりあえず行動する」とアフィリエイトサイトに書いてあった。だが残念なことに、とりあえず行動するためのやる気が起きないのである。


 眠い。

 

 主の匂いが染み込んだ布団の上でゴロゴロと寝転がり、定期的に枕で深呼吸をする。

 

 そんなこんなで体力なし狐をやっていると、珍しい妖怪からメッセージが来た。

 相手曰く、先日の件について話が聞きたいから今から家に来ると言うのだ。

 土産は何が良いかと気の利くことも聞かれたので、美冬は悩んだ。


 ……。


『晩御飯の材料』


 †


 買ってきてもらった夕飯の材料を冷蔵庫に入れつつ、居間の方を見た。客人……ならぬ客妖が、何が楽しいのか部屋のモノをジロジロ見て回っているのだが……。

 何しに来たんだあの人。


「エロ本とかどっか隠してないんですか」


 本当に何しに来たんだ。この、茶プラ狐は。そしてもし仮に進がエロ本を家に持ち込もうものなら、本人もろとも焼却処分だ。


 彼女は美冬の従姉で、つまり照憐の妹であり魔導庁に努めている狐の妖、花燐だ。進と正月にあって非リア童貞だとか言ったり、先日は「入院とか草」とかいうメッセージを送りつけてきた張本人である。

 

「にしても狭い部屋ですね。加えてお前の匂いと非リア童貞のクサイのが混ざって最悪な臭いですよ」


 そしてタダでさえ口が悪い狐が多い月岡家の中でもダントツで口が悪い。


「文句があるなら帰ってもらって──」

「これお前のブラか、ちっさ」

 勝手にタンスを開けて下着を広げ……何やってるんだこの狐は。

「花燐だって美冬と対して変わらないじゃないですか」

「は? ぶちのめすぞメンヘラ貧乳」

「メンヘラ……っ」

 せっかく出してやろうと思った茶を、危うく投げつけるところだった。


 さて、やっと座って落ち着いたところで本題に入った。

「それで、何しに来たんですか」

「この間の件について」

「事情聴取なら散々受けたんですが」

「まあそれ以外にも有るんですよ」

 花燐は茶をズズと啜っってから、側においてあった紙袋から菓子折りを取り出し、ローテーブルに置いた。

「兄貴から。お前が何人かぶっ倒してくれたお陰でそこそこ進展があった礼。それと早い段階で進が情報提供していたにも関わらず、組織が動かず結果的に病院送りになったことに対しての詫びだそうです」

「照憐君が?」

「ええ」

「それは、わざわざご丁寧にどうもありがとうございます……」

 きっちりしてるんだな、と従兄の意外な一面に感心しつつ箱を受け取った。

 日本橋にある超高級な果物屋のゼリーの詰め合わせだ。中々滅多にお目にかかれない代物で高揚するが、冷静を装う。


「折角ですし、花燐も今食べていきますか?」

「自分が今食べたいだけでは?」

「……。じゃあいいです。あとでご主人様と2人で頂きます」

 余計な一言が多いというか、性格が悪い。非常に性格が悪い。どうやって社会でやって行けてるんだこの狐は。

「あ、私はマンゴー味で」

 結局食べるのか。性格が悪い上に自由過ぎやしないか。

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