第151話 しょうもない理由で反応に困る
食べつつ喋りつつで時間が少しずつ経っていく。
「そろそろご主人様が帰ってくる頃合いですか……」
時計を見たらそういう時間だ。腹を空かせて帰ってくる主の胃袋にエネルギーを叩き込むために、そろそろ夕飯の準備を始めなければならない。
「話変わるんですけど、その『ご主人様』って何ですか?」
ふと、花燐が訊いて来た。
「ご主人様は……ご主人様ですけど……。すぅ君……」
説明して、主の事を「ご主人様」以外で呼んだのが数年ぶりであることに気付いた。
「進の事はわかりますけど。いや、確かに主人には変わりないですが。キモくないですか? メイドじゃあるまいし」
「キモい……? どこが? ご主人様の事をご主人様と呼べるのは従者の特権ですよ?」
「そう……なのか……。限りなくポジティブに捉えればそうですけど。なんでご主人様って」
そういうことか、と質問の意図を察する。
つまりどう言う由来で彼を「ご主人様」と呼ぶのかということだ。
「昔はすぅ君ってあだ名で呼んでたんですけど、周りも真似しだして、ご主人様の事をすぅ君って呼ぶようになったんです。それまで美冬だけだったのに」
「……それで?」
「特別な感じが無いじゃないですか。だから、美冬しか出来ない呼び方って何かなあ〜って思ったら『ご主人様』だったんですよ」
「しょうもない理由で反応に困るんですけど」
「訊いて来たのそっちなのに」
美冬は今考えても、進をご主人様と呼ぶことは良いアイディアであると自負している。他の誰も呼ばないし。正しく、彼女のみに許された特別な呼び方と言えよう。使い魔、従者、召喚獣、いずれのアイデンティティを保てるところも良い。
「そもそも、お前が進と住んでるって聞いたときも驚きましたよ。所詮、形式的な主従でしかないのに何をやってるんだか……。特別とか何とか知らないですけど」
「それは、嫁ですから一緒に住むのは当然ですし、特別でないと困りますよ」
「……よめ?」
「はい。嫁。お嫁さん」
「人間の嫁って何……、お前、トチ狂ってますよ、いろいろ……」
乾きに乾ききった苦笑いで、本物の呆れが向けられる。
だが美冬は動じないし呆れに対する反論もしない。他人にどう思われようとどうでもいいし、そもそもそういう事を気にする時代でもないのだ。
花燐が勝手に空気を微妙にしたところで、テーブルの上にある美冬のスマホが震えた。
「ほら、噂をすればご主人様から電話ですよ」
メッセージアプリで、進から通話のコールがかかった。普段ならメッセージだが、通話とは珍しい。
受話器のアイコンをタップして、耳に当てる。
「もしもし? どうしました?」
『────』
「ええ……」
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