第152話 喧嘩売る相手くらい選べって
正木由良は、非常に鬱屈とした気分だった。
身内が始めた訳のわからない事に協力させられ、クラスメートに妖怪側の人間が居て、そのせいで魔導庁なり警察なりに目をつけられ……。
学校にすら行けそうになく家に籠っているのだが、加えてつるんでいるバカ共がバカをやらかしたのだ。
「あのさ……喧嘩売る相手くらい選べって言ってるじゃん」
電話越しに助けを求めてくる馬鹿に、呆れ半分と怒り半分で嘆いた。
結局、尻ぬぐいは私の仕事だ、とため息を吐いた。
「それで、場所は? ……は? 浅川大橋? それあたしに助けられるの前提でやったでしょ……」
告げられた場所は、家から近所だった。内心、ふざけんなと更に呆れて怒りながら、部屋の窓から飛び出した。
†
その正木が家の窓から飛び出していくのを、様子を見に来た飛鳥が見ていた。
最近は全く学校にも来ず、連絡も寄越してこないからと心配して家まで来てみれば、偶然こんな場面に出くわしてしまった。
正木は屋根伝いに跳んで、北の方角に進んでいる。
「正木ちゃん!!」
呼び止めようと叫んでも気づかれない。走って追いかけるも、人間離れした速度で、見失いそうな勢いだ。
ただでさえ帰宅部、制服、加えて荷物もあるという走り難い状況に加え、地上を走っているせいで信号につかまった。
そうしている間にも、正木はどんどんと離れ、見失ってしまった。
だが、どうしようと途方に暮れる暇も無く、近くに妙な気配を感じてしまったのだ。いわゆる霊感というやつで、何か人間ではない、謎の威圧を解くから、しかも北の方から感じるのだ。
考える間もなく、正木はそこへ向かったのだと確信した。
†
進が立川の駅に着いて美冬に連絡を取ろうと思い、スマホを取った時。忌々しくも、菅谷飛鳥からの着信があった。だが、気づいてしまうと出ないという選択肢を選ぶことがあまりできないお人好しな進は、そのまま電話に出てしまった。
『日戸!? い、いま色々大変なことになってて!』
出た途端にキーキーと叫ばれては、耳は痛いし話も聞き取れない。
「とりあえず落ち着きなよ」
要件は何となく察しは着く。学校で、正木のところに様子を見に行くと一足先に学校を出ていったから、おそらくそれ関連だろう。
『今、正木ちゃんとデカい妖怪が戦ってて』
「うん、それで」
『いいから助けに来て!!』
……はあ。
ここで断ってもいいかもしれないが……。
「わかった、場所は?」
頼まれたこととなると、どうにも断れない性格は損だ。
それに、この間負けた分、何かで取り返してやりたい気持ちも多分にある。
†
「いや、そのまま放っておけば勝手に死ぬじゃないですか。美冬たちが助ける義理ないですよ」
進から、召喚するから準備をという旨の電話が来て、いつもなら即答で「はい」というところ、文句が先に出た。
『死んだら損害賠償請求できないよ?』
風切り音がうるさい。
「別にはなから期待もアテにもしてないですし……。ていうか助けに行ったらテロリストの手助けってことじゃないですか」
『二次被害の防止。すでにアリスにも連絡入れたから大丈夫』
「はあ……んんん──わかりました、準備はしますけど……しますけど……」
どうにも納得がいかない。そして進がお人好しすぎるのもムカつくし、助けようとしているのが女だというのもムカつく。
そうしてもじもじしていると、急にスマホを花燐にひったくられた。彼女も狐で耳が良いから話の殆どは聞き取っている。
「場所は!?」
『え、あ、花燐さん? えっと、浅川大橋ってところらしい……』
「浅川大橋……わかった、私も加勢します。退院直後なんですから、また病院送りにならないよううまく立ち回ってください」
スマホを美冬に押し付けて、今度は自分のスマホを取った。
「シルビア、出動の準備して。場所は浅川大橋」
ここへ来るために乗ってきた車の付喪神に電話で伝えながら、荷物をまとめる。
「夕飯もあやかろうと思ってたんですけどね」
花燐は足早に玄関に向かった。
「それはまたの機会に」
そして美冬は、花燐が扉を開けて飛び出して行ったあと、鍵を閉め戸締りをしついでに靴を持った。
部屋の片隅に立てかけておいた居合刀を取って、靴を履き、準備は完了。
先ほどからしつこく干渉してくる進の魔力に合わせて、召喚術を発動する。
途端に、美冬の体は白い魔力と赤い魔力に包まれ、空間から姿を消した。
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