第122話 間抜けな顔してますよ

 明日から早速授業が始まって、帰りが遅くなる。研究室の手伝いにも行くし、高千穂の手伝いも再開して、さらに帰りが遅くなる。

 それに対して本人よりも憂鬱になっているのが美冬だ。


 日付はすでに変わっているから、厳密に言えば今日から授業が始まる、ということか。

 進は隣ですでに寝ている。

 寒いからと、都合良く抱き枕にされている。

 体は完全に密着した状態なのだが、気分は寂しい感じがした。

 寝て無防備になっている主の口元を噛むのは、美冬の日課だ。

 冬で乾燥した彼の唇を唾液で濡らした舌で舐めてやる。実は逆効果で、余計に乾燥するらしい。

 彼は一度寝ると余程のことでもない限り全く起きないので、悪戯し放題。起きている間に拒否られた分を発散するのだが、リアクションが無いのは面白みに欠ける。


 毎晩、静かになると虚無感とか孤独感を凄く感じる。誰かといるはずなのに感じてしまう。

「鬱かな……」

 誰も聞いていないからと、美冬は独り言ちた。


 †


 ほぼ寝てないまま、今日も朝になった。

 午前6時。

 朝と言っても、真冬だからまだ日は登っていない。

 主を起こすにはまだ少し早い。

 起きる前に、もう一度彼の唇に噛み付いてから起き上がる。

 薄暗いから部屋の明かりを点けた。部屋が明るくなった程度では、進は起きない。ある意味でこの寝付きの良さは羨ましいが、起こすのに苦労する。こちらの身にもなってほしいところだ。


 顔を洗ったりなど、とりあえず寝起きのルーティンをこなして、早速朝食作りと弁当作りを開始する。

 米はタイマーで丁度この時間に炊けるようにしているので、保温のスイッチを切り、ほぐす。

 昨日の晩に作った味噌汁に火をかけ温める。


 まずは、いつも通り、ほうれん草のバター炒めを作る。これは弁当にも朝食にもする。

 数日前に大量に作った冷凍ハンバーグは、冷蔵庫の中に昨日の晩のうちに入れておいたので解凍済み。これはあとで焼き直して、ロコモコ弁当にする。

 ガスコンロは2つあるのだが、3つ欲しくなる。一つを味噌汁を温めるのに使ったら、使えるのは一つしか残らない。IHヒーターとかを別で買おうかと思ったときはあったが、置く場所が無くて断念した。


 †


 さて、そろそろ進を起こす時間だ。

 一度コンロの火を止めて、部屋で寝ている進の元へ。

 さて、今日はどんな風に叩き起こしてやろうか。

 彼の頭の横で膝を折り、体を揺すってみる。

「起きてくださぁい」

 同時に耳元で言う。これでは起きないので、頬と耳を引っ張り「お! き! て!」と少し大きめの声で言って、やっと起きる程度。

 無理やり起こしたせいで、寝起きでぼーっとしている。

 目は半分程度しか開いていない。

 

「おはようございます。早く起きて、顔洗ってきてくださいね」

「……うん……」

 起きてはいるが目覚めてはいないらしい。

 これはチャンスだと思って、またも唇同士を軽く触れ合わせた。そして、連続して額にも。

「間抜けな顔してますよ」

 バカみたいな間抜け面。自分が今何をされたのかいまいち理解していない様子。

 寝起の口にディープキスするのは抵抗があるから、彼が顔を洗ってうがいをしたタイミングでやり直してやろうと思った。

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