第14話 なに姉妹で男取り合ってんの? 昼ドラ? ばか?
仙台に着いてからは、電車とバスを乗り継いで、日が傾く頃にやっと美冬の実家へ到着した。
4日分の着替えは重く、それに暑いからさっさと玄関の戸を開けて中に入る。
そしてその瞬間、戦争は始まる。
戸を開けた瞬間に襲いかかってくる妖狐並びに狂狐。
オレンジ色の一閃が電光石火で進に突き刺さり、そしてまとわりつく。
「すぅ様すぅ様すぅ様すぅ様!!!!!」
と、進をひたすら呼びながらキャッキャと騒ぎたてるきつね色の長い髪の少女。
彼女が美冬の妹、美夏である。
「すぅ様ぁ〜会いたかったです〜!!!」
「あ、うん。元気そうでよかった……」
進は呆れつつ、美夏の頭を掴んで押して、それとなく引き離そうとするが通じず、傍から見たら撫でている様に見えるから、美冬にものすごい剣幕で睨まれるのであった。
†
進は、その実かなり罪悪感で死にそうである。
客間に通され、和風な畳の上、座布団に座りながら、みふママから出された麦茶を飲み、寛いでは居るのだが
「ねえ、すぅ様?? いつになったらみふ姉えと契約切るの?? ねえ?? ねえねえ??」
と、可愛い顔と声してえげつない事を、それこそ進の膝の上に寝転がりながら言うのだ。
向かいに座る美冬は、怒りを堪えて黙っているが、とにかく後が怖そうである。
「だから切らないって」
「なんで??」
「なんでも」
「それじゃあ、あたしと契約できないよ??」
「しないって言ってるでしょ」
「なんで??」
「みなにも主人居るでしょ」
「すぅ様と契約結ぶなら、すぐ切るもん」
「それアイツが聴いたら泣くよ、マジで」
従弟の心配も良いが、彼自身が今にも泣きそうである。
とにもかくにも、進はこのままでは精神衛生上危険だと判断し、美夏を退けて、さっと移動。美冬の隣に座り直して落ち着く。
少し離れたところから舌打ちが聞こえた。
「そんな役に立たない狐、捨てちゃえばいいのに」
ボソリと、美夏が呟くように言った。だが、声はハッキリと聞こえるギリギリの大きさで、当然、進と美冬の耳にも届いていた。
美冬は黙ったままで居る。
ただ、進は当然それが出来なかった。
「いや、そんな事ないよ」
と、一言だけ。
進は、これ以上に美夏が何か言おうとしたなら言い返すつもりでいたが、美夏は何も言わなかった。
美夏は進の飲みかけだった麦茶を一口飲み、素知らぬフリをして……
「あなた今、何、しました?」
美冬に笑顔でキレられた。
「ん? お茶飲んだだけだけど」
「とぼけないでください? だれのコップで飲んでるんですか」
「あー、ごめんなさーい、ついうっかりすぅ様のを飲んでしまいましたー。関節キスーしてしまいましたね〜」
その余計な一言が美冬を更にキレさせた。
美冬が魔力を放出させ始めると、励起した周囲の空気が薄らと白く光る。無言の怒りを醸し出しながら、冷たい麦茶がたっぷり入ったピッチャーを掴む。
「みふ、落ち着こう、な??」
ここでやっと進が止めた。
いま絶対にそれを美夏に引っ掛けるつもりだったろ、と。
「いやでも一発くらい」
「だめ」
「なんでですか」
「親族会議にまで発展するから」
進のところと、従弟のところで。
使い魔どうしが喧嘩なんか起こしたら、その双方の主の資質が問われる。
美冬と美夏は何度もやらかしているので、次以降は本当にどうなるかわからない。
それをわかっている美冬は、不服ながらも堪えるしかないのだ。美夏の勝ち誇ったような顔に、「いつか呪い殺してやる」とものすごい剣幕で睨んでやった。
「やれるものならやってみろ」と美夏もドヤる。
哀れ、間に立たされたモヤシ男、進の運命や如何に。
「なに姉妹で男取り合ってんの? 昼ドラ? ばか?」
と、ここでみふママ登場。
明らかな呆れ顔で、そして虫けらを見る目で娘達を見やり、そして時計を見るように促した。
6時を過ぎていたのだ。
それもそのはず。進達がここに到着したのは夕方だったからだ。
「ご飯なんだから、準備手伝いなさい」
そう。神戸牛の時間だ。
その時、美冬は思い出した。
数時間前、立川から仙台まで急遽行く事にした理由を。
妹などに構っている余裕はないと言う事を。
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