第15話 見てると危なっかしいので何もしないでください
で、何故か本格的にバーベキューとなった。
月岡家の広い家の広い庭に、こじんまりとBBQ用コンロと折りたたみのキャンプ用テーブルやら椅子やらとを広げ、夏の田舎の星空の下、薄暗いガスランタンに照らされる中、なかなかにムードがキマったバーベキュー。
料理担当は美冬となった。
大人2人は早速酒を呑み、美夏は追加の買い出しにパシられていった。
ところで進はと言うと椅子に座って片手に缶のコーラを持ち、美冬を眺めていた。
「みふ? ちゃんと食べてんの??」
「ちょくちょく摘んでるので」
とのこと。
元々神戸牛を食べに来たのに、食べないでは勿体ない。
「変わろうか?」
「ご主人様は見てると危なっかしいので何もしないでください」
そして彼に対する信用は無い。
「そろそろ焼けますからね」
と、美冬は心做しか少し楽しそうにしながら第2波の肉を育てている。
ならいいか、と進も若干気分が良くなった。美冬が楽しいならそれがいいよ、と。
そして、少し時間が経ち肉がちょうど良く焼き上がる。
一番最初に食べれるのが料理担当の特権。トングでつまみ、毒味と称して一切れを直で口に放り込む。
「で、どうなの」
「ミディアムレア」
「最高じゃん」
第1波はウェルダンだったので、今回は上手くいったらしい。ネットの情報曰く、神戸牛はミディアムレアくらいが1番美味いとのこと。
美冬はそれらを手早く紙皿に乗せていき、テーブルの上に乗せ、またコンロ前に戻る。こんどは第3波の肉やら野菜やらを焼くために炭の調整に入った。
働き者だなあ、なんて他人事のように思いながら進はテーブルの上の神戸牛を摘む。
「高いお肉ってうまい」
以前に美冬が言った言葉を思い出した。
「でもどうしてこんな高級品が?? 我が家にそんな余裕ありました?」
と、ここで美冬が気付く。
そう。神戸牛という言葉に釣られてきたは良いが、そもそもなぜ天下の神戸牛がここにあるのか。奮発したにも程がある。
すると半分くらい酔っ払ったみふママが、片手を高くあげてピースを作り「商店街の福引で当てた〜。母に感謝せよ〜」と言い放つ。
なんともテンプレートすぎる回答であったがそれなりの信ぴょう性はあり、物珍しさも相まって、進と美冬はふたりして「おー」「すごーい」と語彙力を崩壊させながらぱちぱちと拍手。
「でも狙ってたのは熱海旅行だった!!」
つまり旅行は当たらなかった。
「旅行いぎだい」
そして酔ってテンションがおかしいみふママは、その時の無念を思い出し嘆いた。
「ぱぱ〜、りょごー連れでっで〜」
「来年な」
みふパパも拒否しないあたり優しいが、結局来年になっても行かないやつである。
そして、みふママもそれに気付く。
「で、でた〜! それ絶対忘れてる奴ー!! みふ!! スマホ!! 録音して!!」
言質を取ろうとするあたり、美冬もみふママも親子か。いや、みふママがこうだから美冬があの性格なのか。
美冬もバカを見る目で「うるさいです」と一蹴。母親に容赦ない娘である。
みふママはそれでもなお騒ぐので、みふパパの方が「おい、すぅ!! お前召喚術士だろ!? 熱海召喚しろ!!」とか言い出す始末。こちらも酔っているらしい。
酔っ払いの相手は面倒である。
そして、うんざりしていると、突如ソレはやってきた。
「ねえすぅ様?? あんな飲んだっくれの相手より、あたしの相手でしょおー?」
音も匂いも気配なく、無から有が生まれるように、進の膝の上には重力がかかった。
「みな、驚かすなよ」
周りが気付いた頃には、美夏が進の膝の上に陣取って、甘えた声を出していた。その後は進の腹を背もたれにして完全に座り込む。退く気は無い。
美夏は美冬を見た。それはもう勝ち誇った目で。美冬は今にも殺しにかかりそうな目で妹を睨んでいるのだが、その妹は全く気にしていない。
その間に立たされた進、哀れ。もう黙りこくるしかなく、なにもなかったかのように缶のコーラを一口飲んだ。
そして、やっぱり考え直す。これはとっとと下ろした方が良いと。
「じゃあ、降りて」
「や゛だ」
「姉妹だなぁ」
言うことが同じ。だがそうもいかなさそうな状況だ。
「んまあ、別にいいけど、まじで大怪我するかもよ」
と、進が視線を美冬に送った。美夏は訳が分からそうにしていたが、とりあえず進と同じ方向を見て、そして黙った。
美冬が立っているのはグリルの前。手に持っているのはトング。それで挟んでいるのは赤くなった木炭。それをにっこり笑顔で掲げて今にも美夏に向かって投げそうな雰囲気である。
美夏は黙って進から降りた。
姉の本気には流石に抗えなかった。
姉の本気の殺意には。
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