第232話 今晩一人でしっぽり

 ある意味眠れない夜を過ごして2日目。

 よくある体験学習という、体験学習とは名ばかりの観光客向けの美ら玉作るやつ。

 他にも星の砂つくるやつなどあったが、美冬に何が良いか聞いたら「亀甲縛りになったビー玉のやつ」と返答があったので、これにした。

 

 午後はホテル内での自由行動。字面だけ見れば窮屈そうだが、ここは流石は沖縄のホテルだ。夕日が見える奇麗なビーチもあればプールもある。下手に外に出て行動を制限されるよりは、ここで自由に動き回れる方が面白い。

 

 早速に美冬を喚んだ。この為に用意しましたと言わんばかりのサマードレスを着て登場する。

 そして海を見て一言。

「うわ……人多い……」

 すでに美冬の顔色は悪くなっていた。

 

 陽キャのウェイが男女ともに際どい水着で奇声を発しており、陰に生きる美冬には眩し過ぎた。

 

 一先ず、進のシャツの中に頭を突っ込み深呼吸して意識を保つ。

 

 空いているベンチに座って、1本のさんぴん茶を回し飲む。東京で飲むジャスミン茶と何が違うのかわからないが、一先ず沖縄らしいものと言えばこれになる。ホテル価格で随分と高くなっていた。

 

「でも、あれですね、海とか行きたいですね」

「いま来てるでしょ」

「そーじゃなくて、泳ぎたーい、みたいな」

「ああ」

 今回2人が普通の格好でベンチに座りながら海を眺めているのは、陰キャだからという理由だけではない。単純に水着を持っていない。わざわざ買おうという発想もなかった。

 

 ただ、折角の沖縄の海なのに、一滴も触れないと言うのは勿体無い。

 どれだけ冷たいのか確かめよう、という口実で、足首まで浸かった。

 やはりと言うか、浅いところの水は生温い。



「ご主人様!」

 ふと呼ばれて、顔を上げる。途端、水飛沫が飛んできた。犯人は、当然、美冬。お陰で頭からびしょ濡れ。鼻の中にも海水が入ってきて痛い。

「水も滴る良い男じゃないですか」

 腹を抱えて笑っている。進がやり返そうかどうか悩んでいる隙に、第2撃が飛んできた。

「なんだよー」

 進も反撃を余儀なくされた。だが、反射神経が鍛え抜かれている美冬には直撃せず、少し掠る程度。その間に、進のTシャツと短パンは水を吸って重くなる。

 

 だが、美冬はとうとう足がもつれて、背中から倒れた。足場が悪い中で動き回れば当然。折角のサマードレスも完全に濡れてしまった。

 

「みふ、大丈夫?」

「こ、腰打ちました」

 

 捲れ上がったドレスの裾を他でもなく進が即座に押さえて、周囲の視線からガードする。

 その流れで抱き上げた。

 

「やだーこのままどこに連れて行かれちゃうんですかー?」

「はしゃぎ過ぎ」

 尚もふざける美冬を笑って流し、そのままベンチに連行する。

「ご主人様、さっき、美冬のワンピースの中、見ましたよね」

「見てない見てない。黄色のレースなんか見えてない」

「はー、それをおかずに今晩一人でしっぽりですか? だめですからね! ご主人様はおなにー禁止ですから」

「駄目も何も、そんな暇無いよ」

「そうですかー? まー帰って美冬といちゃいちゃ出来るまで我慢ですからね」

「はいはい」

「あ、美冬はご主人様のお布団で一人でしっぽりするので、その時電話しますね」

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