第233話 エロ通話だと思いました!? 残念でした!

『エロ通話だと思いました!? 残念でした! ねえ今どんな気持ち? どんな気持ち? NDK? NDK?』

 

 進は無言で通話を切り、スマホの通知をオフにした。

 

 すーっと息を吸って、ふーっと吐く。そして自販機で缶コーヒーを買い、カフェインを摂取する。

 

 決して期待していたわけではない。電話越しに美冬の喘ぎ声を聞いたところで、諸々困るだけだ。決して、美冬が電話越しに一人で乱れて居るのを観測したいわけではなかった。

 ただ、この、敗北感。

 きっと忘れることの出来ない敗北感が、腹のあたりに蠢いている。

 

 部屋に戻ろう。恐らく今頃は部屋で根暗な男どもが大富豪のローカルルールの解釈違いで議論に議論を重ねている頃だろう。それを生暖かい目で見守りながら救いようのない愉悦に浸ってやるのだ。

  

「あれ、彼女と電話じゃないのかよ」

  

 生暖かい目で見守られていたのは、どうやら進の方だった。部屋の扉を開けた途端に班員全員から視線を向けられ、さらに心配されているような雰囲気である。

 

「いや、あ、いや、少しだけ」

「喧嘩してすぐ帰ってきたのかと思った」

「いや別にそういうわけではない」

 

 班員どもは、そうかそうか、とカードゲームに戻った。ただし大富豪ではなく、普通にババ抜きだ。解釈違いもなく平和そうで何より。

 

 さて。そろそろ美冬にキレられそうなので、ラインを確認する。案の定、大量のメッセージが届いていた。通話の着信も丁度かかって来た。

 仕方ない。また部屋を出て、廊下の隅で着信に応じてやる。

 

『あ、やっと出ましたね! 周り誰も居ませんよね。ビデオ通話に切り替えてください、ビデオ通話に』

「まって何でテンション高いの。怒られると思って出たんだけど。あとなんか声反響してるし」

『良いから良いから』

 

 急かされて、なんとも不審に思いながらもビデオ通話に切り替えた。

 画面に映ったのは、美冬の顔だ。だが、妙に髪の毛がしっとりしている。

 

『あ、ご主人様ー? 見えてます?』

「うん。え、なに、風呂入ってるの?」

『そーそーそーそーなんですよ、いやあ期待させたまま何も無いっていうのも可哀想なので、お風呂配信して差し上げようかと。ちなみにちゃんと全裸ですよ!』

 

 ほら、と言って、美冬のほぼ全身が写った鏡が画面に映された。

 

「こらこらこらこらこら恥じらいを持て恥じらいをあとおっぱいを隠しなさいびっくりするなあ」

『ご主人様に会えない寂しさでそろそろ母乳が出せるんじゃないかと思うんですけど』

「揉むな揉むな貧乳だと寧ろいやらしく見えるんだから。夢に出てくるからやめて」

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