第234話 母乳でよろしければ

 ブラックコーヒーにも飽きてきたので、たまにはミルクたっぷりなカフェオレでも作ろう。

 いつものインスタントコーヒーを瓶から適量をカップに入れ、熱湯を注ぐ。そして砂糖を用意し、冷蔵庫から牛乳を取り出す。

 だがパックを傾けても牛乳は出てこない。

 

「あ、牛乳が無い……」

 

 どうやら切らしているようだ。

 ならば仕方ない。諦めよう。

 

「ご主人様」

 

 するとどこからともなく美冬が現れた。シャツのボタンを外し、下着の肩紐をずらす。

 

「美冬の母乳でよろしければすぐに用意できますから」

 

「……はっ!!」

 

 気付けば、貧乳から牛乳を出そうとする美冬は居らず、知らない天井が視界に写っていた。

 夢か。今が現実か。どこまでが夢でどこからが現実だったのか。

 進は混乱した。

 嫌な汗が気持ち悪く、妙に早い鼓動がうるさい。

 そもそも美冬の牛乳とは何か。美冬は牛ではなく狐だから狐乳きつにゅうとか狐乳こにゅうあるいは狐乳こんにゅうか。最後のは何か混ざっていそうなので嫌だ。それに飲んだところで美味いのか。

 

「俺は一体何を考えて……」

 

 †

 

 3日目の午前中は自由行動。アメリカンビレッジで、特に班で分かれる事もなく、好きな人間同士が集まって適当にほつき歩く。

 当然、進は美冬を喚び出している。

 

 そして胸元が気になる。

 Tシャツの襟の隙間から貧乳が覗けるのだが、昨日の諸々や今朝の夢のせいで、どうにも意識がそちらに向く。

 折角、アメリカ情緒な建物が並んでおり、美冬もそれで楽しんでいるのだが、進はそれどころではない。

 

「あ、ご主人様、観覧車乗りましょうよ、観覧車」

 美冬が進の手を引っ張りながら観覧車を指した。夏毛の細い尻尾をパサパサ振っている。

 

 観覧車

 密室

 外から見られることもない

 

「ごめん今は無理」

 だがやはり進はそれどころではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る