第176話 おっぱいがデカイらしいですね

 期末テストが終わった。

 色々終わった。完璧ではないが最善は尽くした。微妙に詰めが甘かったところと凡ミスをいくつかやらかした。

 母に成績が納得行かないと嫌味を言われかねない。覚悟はしておこう。

 それはさておき、そろそろ春休みが始まる。美冬は実家に帰ったりするのか。帰るなら早めに新幹線のチケットを買っておいた方が良い。


「試験の結果、出たんですよね。見せてください」

 母の前に、美冬によるチェックがあったことに、帰った途端に気付かされた。

「前回より微妙に悪くなってません?」

 そして気付かれた。

「VTuberにうつつを抜かしてるからじゃないんですか?」

「最近は控えてます……」

「何でしたっけ? 芝刈り機のモノマネする人が居るみたいですね」

「……らしいですね」

「で? おっぱいがデカイらしいですね」

「さ、さあ知らないですね」

 美冬はテスト用紙を伏せてテーブルに置き、進に返した。咳払いをして、ふう、と息を吐く。それから立ち上がって「ご飯にしましょう」と台所へ向かった。


 意外にもあっさり解放されたことに驚きつつ、最近見始めたVが早速バレている事に恐怖を覚えた。決しておっぱいに釣られたわけではないのだと自分に言い聞かせ、台所に立つ美冬の胸を見て気を保つ。

 無駄を省いたあの形状こそが正しいのだ。そうに違いない。


「それはそうと、仙台にある大学でご主人様が行きそうな学科があるところ、2つくらいしかないみたいですね」

「えっと……そうみたいだね」

「うち1つは国立ですね」

「ですね」

 美冬が台所に立ち、エプロンをきゅっと締めて、振り返った。眩しい笑顔を精一杯に作って、進を睨む。

「期待してますからね」

 

 それは親に「勉強しろ」とか「いい大学に入れ」なんて言われるのより、数倍、いや数百倍、もしくはそれ以上に、鋭いモノだった。

 もし仙台の大学に進学できなければ殺されるんじゃないか、という気迫さえ感じる。しかも美冬の中では進が仙台の大学に行くことは既に確定事項だ。

 兎に角、美冬のためにも、成績を上げなければならない。


「あ、えっと、プレッシャーかけるつもりじゃなくて……その、ごめんなさい。ご主人様が勉強してるのはちゃんと美冬が見てますから。今回はたまたま調子が悪かっただけだと思いますし、あと2年はありますから」

 美冬が慌てて言う。

 まるで鬼の母親みたいな事を言っておいての急な温度差に、進も微妙についていけていない。

「えっと、なんでしたっけ。平均への回帰のパラドックスでしたっけ。調子が悪い時もあるんですから、あまり気にしないで、次回は頑張ればいいんですよっ」

「うん……ごめん、次はもっとやるよ」

「えっと、あの、はい。次は頑張って……下さい」

 励まされるとむしろ嫌になる。気を使わせてしまったこととか、自分がミスしたことを余計に思い知らされることとか。それで嫌な気分になっていること自体が、まるで美冬を悪く思うみたいになってしまって余計に嫌になる。

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