第175話 今夜は初夜ですからね

「──って感じで散々尋問されたよ」

 と、学校であった事を美冬に報告した。

 美冬がご所望だったペンギンの顔のケーキをデザートにして。

 美冬は聞きながら「なんですかそれー」と笑う。

「さっさと言っちゃえば良いじゃないですか。嫁だって」

「いやまだ結婚してないし」

「どうせするんですから良いじゃないですか」

 ね? と念押しをして。

「でも幼馴染で彼女ですか。なかなか悪くないですね。つまりご主人様がご主人様で彼氏で幼馴染で旦那さん……にゅふふ」

「そういえば、初花ちゃんと美夏も幼馴染だな……」

「さてこの世から全ての幼馴染をぶち殺しましょうか」

 ペンギンの目玉にフォークが刺さった。


「あーでもそういえば普段からご主人様の嫁であり使い魔であることは名乗ってますが、彼女であるとは一度も名乗ったこと無いですよね。指輪はめるまで彼女を名乗ることにしましょうか」

「もうそれは好きにして……」

「なんですかそれ。じゃーご主人様は美冬のことどう言うんですか」

「普通に使い魔とか召喚獣とか」

「はあ? なんですかそれ今すぐご主人様の立場を体に教え込みましょうか??」

「立場も何も……」

「まず前立腺から叩き潰します?」

「いまケーキ食べてるんだけど。下品なこと言うのやめてくれる?」

「はぁぁああ!? 射精止まらなくなるまでブチ犯したりますか、あ゛あ゛!?」

「いやマジで下品だな……」

「明日の水筒の中身、変若水じゃないといいですね!」

「頼むからそれだけはやめて。学校でちっちゃくなったら洒落にならないから」

「そしたらご主人様が学校通えなくなって美冬とずっと一緒ですね! まじでやりましょうかね!」


 不毛な言い争いに体力を使ってしまった。折角の冷たく冷やしたケーキが勿体ない。わざわざ遠回りして買いに行ったケーキなのに、下品な言い争いのせいで、勿体なさに拍車がかかる。

 

 美冬は一切気にしていない様子で、ペロリと平らげてしまった。

「ご主人様がわざわざ遠回りして買って来て下さったのも合わさって美味しかったです」

「そりゃ良かったよ。はい、食え」

 微妙に2口分ほど残っていたのを、1口美冬にフォークで差し出す。美冬も「あ〜」と遠慮なく食べて、残り1口は進が食べて、終了。

 食べ終わってしまえば一瞬の様だ。


「でも、ご主人様」

 美冬がケーキの箱などを片付けながらふと切り出す。

「美冬たち、そもそも結婚って出来るんでしたっけ。美冬は人間の戸籍は無いですし」

「えっと、人間のフォーマットじゃなくても、魔導庁のフォーマットでなら出来るようになったらしいよ。一応。法的な効力はないけど」

「と言いますと?」

「結婚してます、とは一応言えるし、みふの登録を俺と結婚してる事にはできる。だけど、例えば俺が何かの書類に『配偶者アリ』とは書けないし、俺が病気とかで入院したとき、みふが家族として手続きが出来ない、とかそういうの。」

 美冬「えー」と不満気な態度を見せる。

「それただの事実婚状態じゃないですか」

「しょうがないよ。魔法も妖怪も知らない人間が作ったルールだから」

「なんかちょっと寂しいですよ……。でも、ご主人様詳しいですね」

「そうかな……。一応調べた限りって感じだけど」

「調べたんですか?」

「一応だよ一応」

「美冬と結婚するために?」

「……いや、だからいちおぅ……」

「じーーーー……」

「──そうだよみふと結婚するために調べたんだよ!」

 

 その一言で、不満気な表情から一転。ぱっと満足気な顔になって、そして何か勝ち誇ったような顔になった。正しく、完全勝利といった具合に。

「今夜は初夜ですからね」

 だが、薄っすら開けた細い目の奥は、完全にハートの形だった。

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