第111話 結構いろんなことがあったなーって思うんです

 テレビで、年明けとともに演奏が終わるコンサートを垂れ流している。毎年やっている番組。

 去年は少しずれただとか、今年はどうなるのかとかなんて電話越しに喋りながら、どこかで聞いたことがあるかな、程度のクラシック曲をぼーっ聞く。

 もうそろそろ、日付が変わる。同時に、年が変わる。

 数時間前に蕎麦を啜ったのが今年最後の食事。贅沢を言えば、美冬が茹でた物を食べたかったと思わないこともない。

『今年はうまくいきますかね』

「どうだろうね」

 普段クラシックなんか聞かないし、指揮者付きのコンサートなど聞いたことも見たこともないのだが、毎年やるこの番組を見ているときだけ、演奏って大変なんだな、指揮者って大変なんだな、という小学生が抱く感想のそれ以下程度の感想ならある。



 演奏もそろそろ終わり。格好良く言うならフィナーレ。

 秒読みのカウントが始まる。

『なんだか、今年って結構いろんなことがあったなーって思うんです』

「いろいろ?」

 言われてみれば。

 高校に入って、一人暮らしを始めて、美冬と二人で暮らすようになった。

 魔導庁をやめて、教授の手伝いをするようになった。

 美冬との喧嘩の数も、そこそこか。

 夏には、久々に仙台に行った。初めての祭りも行った。

 学校の文化祭もやった。

 新しい知り合いとか、友人もできた。

「確かに、なんかいろいろあった気がする」

 思い出すと、いろいろと沸いて出てくる。なんだかんだ言って、今年はかなり充実していたのではないか。

『ほんと、ご主人様が満里奈とかいう女に興味持ってたって判明したり』

「アレに関してはちゃんと説明したじゃん……」

『はいはい』

 最後の最後に黒歴史を引っ張り出されるのはつらいものがある。

『ご主人様』

「ん?」

『来年も、よろしくお願いします』

「こちらこそ」



 演奏が終わって、ほぼ同時に日付が変わり、テレビに映るコンサート会場では一斉にクラッカーが鳴る。

『今年は上手く終わりましたね』

「うん」

 騒がしく、司会役のアナウンサーと芸能人がなんか言っているが、心底どうでもよくてテレビを消した。

 部屋には、スマホから流れる通信のノイズだけ。

『ご主人様』

「うん」

『あけおめです』

「うん」



 二人の新年のあいさつなど、この程度で良い。

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