第110話 もう疲れてるんだ、きっと
数学の最後の問題の答え合わせをして、赤ペンを置き、そして深い溜め息をついた。
「おわった……」
本当に年越し前に終わった。
と言うよりも、終わらせざるをえなかった。
『お疲れさまです、良かったですね、来年に持ち越さなくて』
すぐに、スマホのスピーカーから美冬の声が流れた。
「実質、年末の大掃除だこれ。腹減ったしご飯食べよ」
気付けば夜の9時、何かと宿題に手こずって時間がかかっていた。
『今晩は何を?』
「無難に蕎麦」
宿題で使ったテキストとノートをテーブルの上から退かしたら、スマホを持って台所へ向かった。
『付け合せは?』
「ネギだけで良いかな……」
むしろ、ネギしかない。
収納から鍋を取り出して、水を入れる。コンロに置いたら火をつけて沸騰するまで待つ。ここで鍋に蓋をすれば時短になる。どれほど効果があるのかはよくわからない。
蕎麦の乾麺を取り出して、待機だ。
『ねぎだけって、寂しい上になんかバランス悪いですね』
「までもこれしかないし」
『たまごのせて月見そばとか』
「そのひと手間が限りなく面倒なんだよ」
『わかりますけどぉ……美冬はそれを毎日やってるわけなんですね、はい』
「お世話になってます……」
『いいえ~』
しゃべっていても、なかなか沸騰しない。
頑張って計算をすれば、沸騰するまでの時間はわかりそうなものだが、高校一年生程度の知識ではその計算をしているうちに沸騰するだろう。
『待ってる間にねぎ切ったりしないんですか』
「あー忘れてた」
『大丈夫ですか……』
「もう疲れてるんだ、きっと」
十中八九、宿題のせいで。
そもそも冬休みはそこそこ長いのにもかかわらず、こんなにも焦ってやる必要があるのか。
心の中で文句を言いながら、つかいかけのネギを冷蔵庫から出し、まな板と包丁も取る。そこそこ慣れた手つきで、包丁を右手に握りネギを薄く細かく輪切りにしていく。
そして、勢い余って切りすぎるのはお約束だ。
時すでに遅し。微妙に残ったまだ切っていない方のネギは、切り口をラップに包んで冷蔵庫へ。
そしてまた待つ。数十秒で沸騰するほど、水はやわではないらしい。ガスを燃やし火をで鍋を温め、それが水に伝わる。これまでどれだけエネルギーのロスが生じているのか。理系エアプを楽しむ高校1年生はそんなことを考えながら、待つ。
「なかなか沸騰しない……」
『魔法使えば早いじゃないですか』
「……あ、それもそうだ」
自分が魔法を使えることをすっかり忘れていた。得意なのは、熱力の魔法。水を温めることなど造作もない。
「そうだ、魔法使えたんだ」
『ほんと大丈夫ですか』
これは相当疲れていると自覚する。
魔法を使ったら、本当にすぐに沸いた。
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