第109話 待ってますね
なんだかんだ言って忙しかった年末。大晦日前日となった12月30日。
やっと何もない日だ。
朝の、美冬への挨拶を済ませたら、敷きっぱなしの布団に部屋着で寝転がって、動画サイトの動画を垂れ流してみたり、美冬の漫画本を勝手に読んでみたりして、平和な休日をだらだらと一人で謳歌する陰キャボッチの鑑である。
やることがない。暇だ。この状況がいかに素晴らしいか。
至高である。
しばらくたって、スマホが鳴った。
画面は美冬からの着信を表している。
朝に喋ったばかりだというのに、何だと思って電話に出てみる。
『ご主人様? 今日、暇だって言ってましたよね』
開口一番それか。召喚しろと言うなら仕方ない。暇だししてやるか。
こんな感じで上から目線で構えていた陰キャボッチに鉄槌が下る。
『宿題、やってくださいね?』
「……宿題」
『はい。宿題です。冬休みですもの、出てますよね?』
「いや……えっと……」
存在を忘れていた。やらなければならないのは理解しているが、休める日くらいその存在を忘れていたいものだった。
『実はですね? 一応、生物と世界史の宿題のプリントが一枚ずつ出てるのは確認済みなんです。ということは、他も出てますよね?』
「……まあ、うん」
『他は何が出てるんですか?』
「ちょっとまって……」
国語、数1、コミュ英、物理基礎、生物基礎、世界史A、日本史A、これら全て出ていたはずだ。
夏休みほど数は多くないが、多少時間はかかるだろう。
「とりあえず5教科全部……」
『なにがどこからどこまでですか?』
「え……」
『メモるので教えて下さい』
「な、なんで……」
『いいから』
基本的に、進に拒否権はない。
テキストの何ページから何ページまでかとか、教科書のどの範囲かなど、かなり細かく聞かれ、そして全てメモに取られた。
『じゃあ、終わったらやったところの写真送ってくださいね? 今日明日かけて終わらせる気でやってください。遅くても3日です。というか、美冬が遅くて3日は帰るので、それまでに終わらなかったら、わかってますよね?』
「え……あ、はい……やります……」
『では美冬は出掛けるので、頑張ってくださいね。生物と世界史のプリントなら余裕で今日中に終わりますよね? 待ってますね』
「はい……」
『では、また後ほど』
そして通話が終わる。
口も心も無言である。
開いていた漫画本を閉じて、段ボール箱にしまう。
無心。
そして、黙って、ペンケースを取り生物基礎のプリントと教科書をローテーブルに広げて、作業を開始した。
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