第108話 既読つけましたね

 帰り道のパーキングエリアで休憩中。

 お手洗いと飲み物を買ってから車内に戻って、朝乃はスマホを見る。先ほど美冬へ送った写真に、返信が来ていた。

 その文章を見て、朝乃はふっと笑う。

「見て、みふちゃんから返信きてた」

 そのトーク画面を進に見せた。

 相変わらずあのコはかわいらしいと思う。

 何枚か送った、進の遠くからの写真や顔、後ろ姿。これに価値など一切ないが、美冬に対しては全く違う。

『は』

『なんですかこれ』

『は 待って辛い死ぬ』

『え 死ぬ 辛い』

『あああああああああああああ』

『海行ったんですか』

『我々 今年の夏 結局行ってなかったんですけど』

『は』

『なんで姉弟二人で行ってるんですか』

『なに 嫌味ですか』

『え』

『うそでしょ』

『え辛い』

『はあ』

『ホントなんなんですか』

『こっちはこんなつらい思いしてるのに』

『そっちは遊びに行って』

『何の仕打ちですか』

『泣きますよ』

『他にないんですかご主人様の写真』

『全部』

『無いなら今撮ってください』

『待ってます』



 という、怒涛の返信が来ていた。

 極めつけは、進がその美冬の呪文を読んでいる間に、さらにもう一つ返信が来たことだった。



『既読つけましたね』

『ください』

『いますぐ』

『ねえ』

『なんか言ってください』



 と、ぽこんぽこんと沸いてくる。

 朝乃も気づいて、一人で笑いながらスマホの画面をタップし、返信を打っている。

『すすむが、愛してるよだって』

 と、言ってもないことを勝手に送ると

『知ってます』

 と帰ってくる。

「知ってるって」

 笑いながら進に報告した。

「可哀そうだから写真撮ってあげるよ~」

「え、嫌なんだけど」

「みふちゃんの危機なのに?」

「みふはそんな弱い子じゃないから」

「うわサイテーこいつ」



『すすむが写真撮らせてくれない』

 朝乃が美冬に報告する。

『いつもの事なので何とかして盗撮してください』

 そして美冬の返信が異常に速い。

『みふちゃんのピンチだよーって説得したら』

『みふは弱い子じゃないからとか言ってるんだけど』

 と、更に姉は弟を追い込もうとする。

『お豆腐メンタルなんですけど泣いていいですか』



「みふちゃん、お豆腐メンタルだって。泣いていいですかだって」

「もう勝手に泣いてろよー」

 だんだん、相手するのもしんどくなってきた。

 進はスマホを持って、アプリを開き美冬に電話をかけた。これが一番手っ取り早そうだ。

 コールは一回も待たずに、すぐに出た。

 出力先をスピーカーへ。

「みふ? 大丈夫?」

『ご主人様……』

 彼女の声はマジの涙声だった。

 本当に泣いていたらしい。

「みふちゃんほんとに大丈夫?」

『あさのさん……。お願いですから近親相姦だけはやめてくださいね……』

「ええ~保証できないな~」

『え、なんて、え? なに?? え? 、いや、えいやああああ……。やめてぇ……。もうやだ……。 なに……。やだこのブラコンとシスコン……。ほんとに……。もうやだ……』

「うそうそ冗談だよ」

『あさのさん嫌いです……』

「嫌われちゃった~」

 朝乃は悪びれることもなく笑った。

 食えない人間だ。生まれた時からしばらく姉弟をやっている進としても、姉のことはよくわからない。

「みふ、また夜話そう。とりあえず今帰り途中だから」

 最後に美冬の返事と、朝乃の「またね」という会話で通話を終えた。



「はいじゃあ、出発」

 シートベルトをつけて、キーを回す。

 パーキングエリアを出て、道路へ合流する。

 冬の夜は早く、外は日ではなく電灯で明るい。

 行きと同じで、第三京浜から中央道へ合流した。

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