第127話 オマケに増えてもう一人

 市ヶ谷 魔導庁

 その小会議室

「なんで今日も来てるんでしょう……」

 昨日と今日で、呼ばれて色々手伝いパシられた美冬は疲弊し、テーブルにだらけていた。

「それは考えたら負けと言うことね。進の代わりというー事で」

 慰めどころか煽りにも聞こえることをボーダーコリー(犬)のサラに言われて美冬は更に不機嫌になる。

 行儀よく椅子の上でお座りして、ハッハッ言ってる。

 犬の分際で。



 何気なしに進とのトーク画面を見る。

 授業終わったの旨が届いたので、魔導庁に居ると返信。先に帰るから家に着いたら召喚術で呼ぶと言われる。

 召喚術……楽でいいな、としみじみ思う。



 両腕を高く伸ばしてグーっと伸びる。

 晩ごはんどうしよう。明日の弁当もか。

「ん?」

 上に伸びたついでに、背中をそらしてそのまま背後の扉を見やる。

 廊下を走る音が聞こえる

 そしてこの小会議室の扉が急に開けられた。

 入って来たのは朝乃だった。

「みふちゃん来てたの? あ、えっと葵さん居るっ?」

「葵さんは……今どこか行ってますけど……」

 朝乃は少し急いでいる様で「えー」と嫌な顔をする。

 何かあったんだろうな、と今はこの組織にとってほぼ部外者である美冬はただただ気の毒に思うだけ。

 もし朝乃に頼まれでもしたら断れないが。



 ちょうどスマホが震えて、視線を移す。

 画面は通知欄に進からのメッセージを伝えていて、その内容は

『鵺が暴れてる 手伝って』

 だった。



「朝乃さん。ご主人様が、鵺が暴れてるって」

「それ! とにかく行かなきゃ」

「……。じゃあ、美冬は先に行きますね……」

 進が巻き込まれているならば、手伝うも何もなく行かなくてはならない。

「え? なに」

「ご主人様が巻き込まれてるみたいで……」

「あ、召喚術か」

 美冬は頷いて椅子から立ち上がった。

 本当に、召喚術って便利だなとしみじみ思った。



 †





 猿の顔、狸の胴、虎の手足、蛇の尾。ヒョーヒョーと気味の悪い声で鳴く。

 鵺の特徴はこのように語られるが、概ねそのとおりである。

 そして、京王線沿線で暴れまわっていた鵺は、線路側でひっくり返って目を回しバタンキューしている。



 そして、それと戦っていた少年と、その従者たる狐っ娘もまた、硬く冷たいアスファルトの上に重なって倒れていた。



「鵺相手に二人で頑張ったねー」

 後から到着し、トドメの一撃の美味しいところだけ持っていった朝乃が、その二人を見下ろして笑っている。

「やったぜ……」

「成し遂げたぜ……」

 美冬と進が二人で弱々しく拳を上げた。

「そういえばあの二人は……」

 必死になっていたせいで半分くらい存在を忘れていたが、進のクラスメートの菅谷飛鳥と、そしてもう一人、正木と言う人物が居た。正木は学園祭の時に買い出しを一緒に行った女子だ。

「そうでした! あのメス共!」

 そして美冬がそれに反応し、飛び上がる。

 今現在、二人は朝乃と一緒に来ていた葵に色々聞かれているが、美冬は葵を押し退けて二人に詰め寄った。



「またアナタですか。菅谷飛鳥さん?」

 既に殺気を滾らせて、黒い眼で下から睨む。

 もう何度も会ってるので名前も覚えたし、軽く顔見知りだ。

「毎度毎度災難ですね。ところで、なんでわたくしの主人と一緒に電車に乗っていたのか、詳しくお聞かせ頂けませんか?」

「だって途中まで一緒で……」

「ええ。知ってますよ。で、何で?」

 途中だからといって一緒に帰るまでしなくても良かろう。

「それでオマケに増えてもう一人、ですか」

 そして標的は正木に移る。

 彼女の場合は、菅谷と友人でああるだけで、進とは関係無い。

 野暮ったい文学少女然とした見た目で一見は人畜無害。

 だが、美冬は彼女の目を覗き込んだ瞬間に、真っ黒だった目は黄色い狐の目を取り戻す。



 なるほどだいたいわかった。



 これ以上喋るのをやめて、一歩後退。

 先程までのやり取りをワナワナして見ていた葵と顔を合わせて「このメス共氷漬けにしといてください」と冗談っぽく言った。



 小走りでその場を去り、実姉と仲良さげに駄弁っている主を捕捉する。

 人前でああも堂々と。やはり進は監禁して一方のブラコン女は殺すべきだろう。近親相姦に発展してしまうその前に対処せねばなるまい。

 そして主が自分を差し置いて他人と喋っているのがムカついた。

 小走りはやがて助走へ。狐が狩りをするかの如く飛びついて抱きついてやる。

 当然、その運動量に疲労困憊の進が耐えられるわけもなくそのまま地面へぶっ倒れる。

 進というクッションがある美冬は無傷だが、進は頭を強打し、悶絶するのであった。

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