第237話 頭打っておかしく……
国際通りで土産など諸々を買い、空港へ向かうバスへ乗り込む。バス内はやけに騒がしい。進は「やっと帰れる……」と呟いてしまう程には、安堵していた。
バスの窓から空港が見えてからは、ヤケに一瞬だった。
さっさと飛行機に乗って、気絶するように寝ていたら、気付けば羽田空港だった。
教師は手短に挨拶を済ませてくれて、早速解散。
美冬が甲斐甲斐しくも迎えに来ているらしく、メッセージで互いの場所を伝え合いながら、やっと姿を捉えた。
「みふ! こっち!」
キョロキョロしていた美冬に手を振りながら近付くと、美冬もすぐに気づいた。
駆け足で近付いてくる。駆け足どころか、全力疾走だ。間合いを一瞬で詰められ、見事、進は狩られた。
美冬の運動エネルギーがモロに進へ伝わる。二足歩行の人間の足裏で支えるには余りにも大き過ぎる。加えて、肋骨を折らんばかりに強力な腕力で身動きを封じられ成すすべはない。
つまり、一切の受け身を取ることすら叶わず、進は勢いのまま、後頭部を固い床に叩きつけられた。
†
「ああ……やっぱみふは可愛いな……」
ふと、進は美冬の体を洗いながら呟いた。美冬の足の指先を、精密機械の重要な部品を手入れするように、丁寧に泡で洗っている時だった。
やはりどうしても密着するような格好になってしまい、否応にも顔も近くなる。すると、美冬の黄色い瞳や、美冬の満足そうな愛嬌のある口元もやはり間近に見えてしまい、ついつい、余計なことを言ってしまった。
「なんですか急に……やっぱり頭打っておかしく……。つまりもっと打ち付ければ──」
「え、なに、なんか怖い事考えて──」
美冬は一先ず、誤魔化すために、進の唇を噛んだ後、彼の口の中を舐めてやった。
「ちゅーし過ぎて舌が疲れてきました」
「じゃあしなければ良いじゃん」
「いやです。長いこと我慢してたんですから。というか、もっとご主人からも積極的に来て頂きたいんですけども」
「……じゃあ、良いなら……」
進は美冬を膝の上に向き合うように乗せると、美冬の胸元に顔を寄せた。
「んっ……にゃぁ……」
美冬が声を漏らしながらも、進の頭を大事に抱えて受け容れている。
「そーいうことしたいなら、ん、変若水の在庫補充してますっっ!?」
進が美冬に与える刺激で拒否の意を伝えた。
だが暫くしないうちに、進は離れた。
「んぇ……もう終わりですか……?」
だが代わりに美冬を愛でて慰めるように抱き締めて撫で始めた。
「いや、その、本当に母乳が出てるのか確かめようと。出なくて安心した。もし本当に出たらなんかの病気だし」
「何言ってるんですか……?」
「だから、出なくて良かったって……」
「ご主人様が、美冬を、母乳が出る身体にしてくれるって話ですよね……? え、違うんですか? 母乳って、赤ちゃん作ると出る様になるんですよ? ね? 早く赤ちゃん作りましょう? 美冬はいつでも受精する準備できてますから」
「だから妖と人間じゃ体の構造違うから──」
「安倍晴明は半妖だったそうです、よっ!」
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