第204話 如何にご主人様に愛されているのか

「あ、ご主人様帰ってきましたよ」

 進の足音が遠くから近付いてくるのに気付き、スタスタと玄関に向かう。

「ま、あなたはそこで隠れて見ていなさい。玄関を開けた途端、ご主人様は一目散に美冬を抱き締めるのですよ。美冬が如何にご主人様に愛されているのか、その目にしっかりと焼き付けなさい」

 と、妹に対し豪語し玄関が開くのを上品にお座りして待つ。

 

 玄関が開き、進が心なしかか弱い声で「ただいま」を言う。

 美冬は上目遣いでソワソワと抱かれるのを待つ。恐る恐るといった具合に進の腕が降りてくるが、途中で何者かが邪魔する。

「おかえりなさいすぅ様っ!」

「ぐはっ!」

 まるで弾丸のごとく美夏がすっ飛んできて、進に着弾。その運動量は凄まじく、進を吹き飛ばすには十分。背後の閉じたドアに背中と後頭部を強打し、美夏に馬乗りされながら悶絶した。

 

 †

 

「えー、すぅ様、お料理とか下手だって聞いてたけど全然そんなことないじゃん」

「そうかな……」

「そうだよ! 普通に上手だよ!」

「そう……かなあ……?」

 褒められるって、実はかなり心地いいのではないか。

 確かに、確かに、確かにそう言われると、自分自身が料理上手な気がしてきた。

 進は妙に手早くニンジンを切り刻み、そして手早くフライパンに油を敷いて炒めていく。卵を片手で割ったりして美夏に感心されながら、さらに気分良く炒飯を作る。

 

 つい、背後からの凄まじい気配に気付く。振り返ってはいけない。きっと戻れなくなる。

「すぅ様? 後ろの畜生は放っておいて、お料理に集中しようね?」

「あ、う、うん、そう……だね、うん。そうしよう……そうする」

 心の中で美冬に謝る。

 これは美冬のためでもあるのだ。こうまでしてでも、美冬の夕飯を作らなければならない。

 美冬が餓死する前に。

 

 さて、炒飯を皿に盛り付けテーブルまで運ぶ。

 簡単な料理ではあるが、美冬が食べれるものを考えた結果、これくらいしか思い浮かばなかったのだ。

 下手に大きい固形物や汁物では食べ辛い。かと言って犬猫用のカリカリなんかを食べさせるわけにもいかない。

 昼は取り急ぎおにぎりを握って、それを食べさせた。

 いつまで続くか不明なこの状況で、おにぎりと炒飯だけでは流石に飽きるし、栄養も偏る。

 食べやすくて、栄養が偏らないレパートリーを考えなくては。

 

 隣では美冬がもしゃもしゃと炒飯を獣のごとく食らっているのだが、本人も苦労している模様。単純に食べ辛そうにしている。米粒が口周りの毛に付いているし、若干周りに溢れている。

 

 結局、見兼ねた進が、スプーンで炒飯を掬い、美冬の口元まで持っていった。

 これなら美冬も煩わしくない。

「……あ、これなら何でも大丈夫か」

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