第225話 ご主人様どいて。そいつ、殺せない

 医務室まで芙蓉を運び込み、忙しそうに他の生徒の面倒を見ている養護教諭を横目に、慣れた手付きで芙蓉の消毒や止血を一先ずする。周りから感心されるのは妙に気恥ずかしい。

 

 ガーゼを巻き付けながら、治癒の魔法を施して傷跡が残らないように修復する。ガーゼは急に治ってはおかしいから巻いているだけだ。

 

「もうほぼ治ってると思うけど、しばらくは無理しないようにね。表面は良くても内側までは保証できないから」

 進は久々過ぎて、少し自信がない。

 芙蓉は頷きつつ、かなり不思議そうにしている。先程まで死ぬほど痛かったのに、今では全く痛くない。魔法をかけられたような気分だが、実際にその通りだ。

 

「──ご主人様」

 

 ふと、背後から美冬の声が聞こえた。

 

「ご主人様どいて。そいつ、殺せない」

 

 そして振り返った先に居た美冬は、カメラの三脚を振りかぶっていた。

 

 美冬は左右に摺り足して進を躱そうとするが、進がカバディよろしく妨害する。折角怪我を直した芙蓉に、またさらに怪我させるわけにはいかない。


「待って、みふ、これは違うんだ」

「お姫様抱っこしてましたよね」

「仕方ない事でしょ!?」

「そもそも治してあげる義理があったんですか」

「いや、だって、目の前で怪我されたら、人としてというか、友達としてっていうかさ」

「知ってますか。男女の友情って成立しないらしいですよ。つまり浮気ですよね、あれ」

「暴論!」

 

 美冬は急にスイッチが切れたように、振り上げた三脚を下ろした。呪詛が混じったような溜息を吐き、真っ黒な目で地面を見つめ始める。

 

「今日、ずっとこんな感じですよね。朝からご主人様とあのブス女の乳繰り合い見せられて。なんですか。泣いていいですか、そろそろ」

「乳繰り合いって……」

「そもそも、なんでそっちのブス女も然も当然かの如くお姫様抱っこされて、ちゃっかり魔法かけられてるんですか。少しは気を使ってもらっても良いと思うんです。ご主人様、れっきとした美冬だけのご主人様なので、そうやって他人に気安く触られて欲しくないんですよ」

 そして標的は芙蓉に移るが

「うん……日戸君にお姫様抱っこされるの、初めてじゃなかったし。今度から気を付けるよ……?」

「あれ、え、あの、どういうことですか今聞き捨てならない──」

「よしこの話はここまでにしよう! 終わり! はい! 解散!!」

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