第224話 巨乳女もヤダ

 そして全員リレーが始まる。2年の集合がかかり進と芙蓉は席を立つが

「狐はヤダ。巨乳女もヤダ」

 と、蛇が駄々をこねていた。

 芙蓉が競技に出るときは進が蛇を預かるのだが、2人同時に出なければならないとなると、そうもいなない。となれば、この場にいる美冬か朝乃が……となるが、それは蛇が嫌がった。

「でも……走らないといけないし、危ないよ?」

「そっちの方がマシ」

 芙蓉が宥めても聞く耳を持たない。

 

 とうとう渋っても居られなくなり、芙蓉が蛇を巻いたまま待機席を降りた。

 

 リレーが始まり、まあまあ走順が進む。そして芙蓉の順番が来て、バトンを受け取り走り出す。

 1週200メートルを半周、つまり100メートル。走ってみると意外と長く、また本人が以前に自己申告していたようにそれなりに時間がかかり、他クラスに抜かされていく。

 芙蓉は必死だが、クラスメートは彼女に期待していたこともないので落胆こそない。申し訳程度の声援が送られているが、恐らく聞こえてはいないだろう。

 

 さて、芙蓉を待つのは進だ。隣の走者が次々とバトンを受け取って走っていくのを横目で見送りつつ、芙蓉のバトンを受け取ろうとリードを取りながら腕を後ろに伸ばす。

 バトンの硬い感触を確かめたら、握り、腕を振る。やるならば本気で。芙蓉が抜かされた分を取り戻す。

 元々、美冬の運動神経に追従するために鍛えた足だ。そこらへんの高校生相手なら抜かせる。

 そして何の問題もなく順位を少し上げ、次の走者にバトンを渡し、レーンを外れて息をつく。

 

 だが、少し周りの様子がおかしい。応援の声に紛れて、反対側の列の方を向いてどよめいている。

「あの子、大丈夫かな」

 という声が聞こえてくる。

 

 グラウンドの芝生を掻き分けて、進の足元に蛇が現れた。一瞬ビビるが、それが芙蓉のトウビョウと気付くと拾い上げて手に乗せた。

「芙蓉が転んだ」

「ええ」

「血出とる。顔は守ったじゃけど足は間に合わんかった」

 それを聞いて、進は反対側へ小走りで向った。

 

 芙蓉は芝生に座り、周囲は他の生徒に囲まれ明らかに心配されている。本人は気丈に振る舞っているが、遠目に見ても足は血だらけ。

 

「井上さん……これは、痛そうだね」

 進はしゃがんで傷口を見る。

「まあまあ」

 普通の感覚で言えば重症だが、進からすれば一瞬で治せる程度だ。かと言ってこの場で治すわけにもいかない。

 

 丁度、アンカーが走り終えた。タイミングを見計らう。近くに居た教員に医務室の方向を指差して、連れて行っていいかの確認を取り、頷きの返答が得られた。

 

「井上さん、ちょっとごめんね」

 一言謝ってから、背中と膝裏を支えて抱え上げる。

 そのまま速歩きで救急搬送。医務室を目指す。

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