第223話 あなた達を二人きりにする方が恐ろしい

 仕事の合間を縫い、暑い中走り回る弟を労いに来たはずだった。汗臭い人混みの中、なんとか見つけ出し意気揚々と声をかけた。

 それまでは良かったのだが、隣に居るプラチナ狐娘が相変わらず弟にヘラっているのを見つけてしまった。

 あまり関わりたくはないが、弟が不憫だ。

 

 曰く、進が他の誰かと仲良く話しているのを見たりしてショックを受けているとかそんなところだった。何となく察しがつく。

 進も進でまあまあデリカシーなどが欠けている部分もあるが……詳しくは聞かないことにした。

 

「それで、お義姉様はなにをしにいらっしゃったんですか」

「こういう催しモノって色々出てきやすいでしょ?」

「という口実ですか」

 朝乃は首を傾げおどけるが、美冬は明確にイラっとした。

「それで〜みふちゃん、トイレ行かなくて良いの?」

「ええ、お義姉様のおかげで引っ込みましたよ色々と。あなた達を二人きりにする方が恐ろしいですから。というか帰りやがれください」

 

 美冬は諦めたような気分になって、だがこれみよがしに、進の膝の上にどっさりと座る。進の膝の上は、誰にも侵される事のない、美冬だけの聖域だ。

 

 一方の朝乃は、それを一切気にする事もなく、進の隣に座った。

「進の写真撮ったのー? お姉さんにも見せてよ」

 と言いながら、美冬の首にぶら下げてある一眼に手を伸ばす。必要以上に進に引っ付き、胸の間に進の肩を挟みながら。朝乃以外にはほぼほぼ出来ない芸当である。

 

「──暑苦しいんだけど」

 

 そして進の切実な嘆きは、2人の静かな戦いにおいて、完全に無視された。

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