第222話 ちょっとお手洗いで泣いてきます
「これ、ドットサイトって言って、花燐から貰ったんですけど」
「うん」
「元々は鉄砲とかに付けるやつなんですけどね、鳥とか飛行機なんか撮る時にすぐに合せられるって言うんで、カメラに付ける人も居るんですって」
「へー」
美冬は組体操から帰ってきた進に解説しながら、カメラのアクセサリーシューに20mmレールを取り付けた。オープンタイプのマイクロドットサイトを載せたら、六角で締め付け固定する。
「これで、次の100メートル走とクラスリレーで走るご主人様もしっかり撮ってあげますからね」
「そんな撮らなくていいから。恥ずかしい」
「そんな恥ずかしがる必要なんてないですよ。寝顔も後で撮ってあげますから」
「本当に辞めてもらっていいですかね、まじで」
美冬は先程撮った写真を確認している。それを進は隣で見守っているが、なんとも言えない気分になる。自分のあまり格好がいいとも言えない姿を激写され、それを吟味されるのは居心地の良いものではない。
恥ずかしいなんて次元を通り越している。
「日戸君、私、次なんだけど」
ふと、芙蓉が妙なものを差し出してきた。
「蛇さん、預かってもらえる?」
蛇だ。
「あ、うん。わかった」
そして、進は蛇を受け取り、ハンドリングの要領で腕に蛇を巻き付ける。進も蛇も妙に慣れている。
芙蓉は「じゃあ行ってくるね」と手を振り、進も「頑張ってね」と送り出している。
「は?」
──は?
「あの、え、なに、なんですか、なんで極々自然にそんなもの預かっちゃってるんですか」
「振り落とされたりしたら可哀想だし」
「あとなんですかあの自然なやり取り。……その、えっと、嫌味ですか。美冬に死ねと、死ねと言いたいのですか?」
「え……何か変だった……?」
「──っ! っ!? ──!? !!!?」
声にならない悲鳴をあげた。
意味がわからない。
それとも自分が間違っているのか。どちらの感覚が間違っているのか。
「だ、だって今……行ってきますみたいなこと言われて……頑張ってねって……な、なんでそんな」
「ぇ?」
「え?」
「ん?」
「え、無理、無理です、意味分かんないです」
美冬はふらりと立ち上がって深呼吸した。だが、一旦少し落ち着いたところで、顔がやつれるだけだ。
「すみませんちょっとお手洗いで泣いてきます」
「……ぁ! み、みふ! さっきのは知り合い同士のごく普通の会話であって、その、えっと」
そして進はやっと気付くが、後の祭りだ。今にもメンタルがブレイクしそう……いや、もうしている美冬を今すぐにどうにか出来るものでもない。
「あ、進ぅ〜居た居たやっと見つけたぁあぁぁぁあ〜っとごめんちょっと用事思い出したお姉さん一旦席外すねー」
「姉さん! まっ! 姉さんなんでここに? いやどうでもいいからちょうど良かったちょっと助けて!」
そして良いタイミングで現れてしまった姉の朝乃は、状況を何となく察しすぐに回れ右した。
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