第106話 そろそろ弟離れをしてもらっていいですかね……
中央道を流れに従って巡行する。
「最近さ、満里奈によく絡まれるんだよね」
何気無しに朝乃が切り出した。
「満里奈ってあの満里奈?」
「そうそうゆるふわ系女子」
満里奈は魔導庁ではいい意味で有名人だが、知る人から見ればやはりゆるふわ系といいう印象になるか。若干無理があるが。
「なんでまた」
「弟つれてこーいって。最近、ちょくちょく魔導庁来てるんでしょ」
「まあ、一応」
「なんでお姉さんのところには来てくれないの?」
「いやだって、姉さん忙しいじゃん」
「弟の顔を見たら元気出る気がするなあ」
「そろそろ弟離れをしてもらっていいですかね……」
「一生無理よ~」
†
中央道から玉川インターで第三京浜へ。
あとはこのまままっすぐ行けば、横浜、横須賀、三浦方面。どこの海に行くかはその後決める。
横浜の港湾地帯の海を見るか、横須賀や三浦の砂浜を見るか。
「そういえばさ……お昼ご飯の……時間だよね」
「ああ、うん、たしかに」
「どうしよっかね。パーキングまでどのくらい?」
進は「はいはい」と答えてスマホを取り、地図をスクロールする。
「保土ヶ谷で結構先」
「じゃあそこでご飯しよか~」
しばらく走って到着したら駐車場の空いてる場所を探し、そこに車を停める。
エンジンを止めて車を降りた。
朝乃は腰の後ろに手を当てて、腰を伸ばすように体を後ろに反らした。
「さーごはんごはん~」
サービスエリアほど大きくもない、普通のフードコート。
朝乃が横浜発祥サンマーメン、進が横浜のブランド豚のスタミナ丼。
奇しくも、横浜をとても満喫している。
「そのラーメン、サンマ入ってんの?」
「いや、入ってない……」
「じゃあなんでサンマ」
「え、なんでだろ、わかんない。ググる」
ググってウィキを読んでも、その名の由来ははっきりしない。
ただし一つだけ明らかなことがある。
サンマは一切関係ない。
†
折角なら透き通って綺麗な海が見たいと、横浜で止まることはなくそのまま高速道路を走り続けた。
港湾の工場地帯を左手に眺めながら、カーブの多い道路を走る。右の方はほぼ山だ。先ほどまでに都会を走っていたはずなのに、そんな景色は一切ない。
スマホとブルートゥースでつながったカーナビが、音楽を再生する。車内のスピーカーから流れる音は、家でスマホから流す音や、イヤホンで聞くそれとはまったく異なる。
車そのものの雑音の間を這うように避けて、耳まで届く。
どこか火炎のような、ゆっくりとした曲調でスペクタクル的なドラムやギター、シンセサイザーの低い音が轟轟とする中、ボーカルが歌う内容はどちらかというと応援歌に近い。
「これなんだっけ」
声だけはどこかで聞いたことがある気がした。
「ハイエイタスだよ~」
「あ、それか……声だけは聞いたことあると思った。多分、姉さんの車の中だけだけど」
少なくとも、テレビとかどこかの店の有線では聞いたことはない。
「だろーねー。まー、露出少ないし、ロック好きじゃないと知らないよね」
「逆になんで姉さんは知ってんの?」
「あーのね、蒼樹さんって居るじゃん?」
「あ、うん、強襲隊の」
以前、満里奈を手伝ったときにも、その時に一緒に仕事をした人物だ。
面識はかなり前からあったが、一貫して変な人という印象だ。
「そそ。蒼樹さんがアルバムくれて、はまった~」
「蒼樹さん、ロック好きなんだ」
「そだよー、ほんとね、ヤバイ、知識量」
「なんか、あの人ミステリアスなイメージ強い」
犬をもふってたり、タバコの形のラムネを吸ってたり、タオルを顔に乗せて椅子で寝てたり。
「ん~あの人けっこー普通の人だよ。ほんとにごく普通」
「何がどう普通なの……」
「普通は普通で普通なんだから」
「ああ、それもそうか」
話の着地点がない。
曲が切り替わると、エレキギターの音が激しく鳴り出す。
「このバンド、曲で結構曲調変わるんだね」
「まあ、作詞した人が病んでた時期と病んでなかった時期があるから……」
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