第10話 次に浮気したらこれを元に裁判を起こすつもりですので覚悟してくださいね?? すぐに東京家裁ですからね??
「で、なんですか、あの体たらく」
と、使い魔に説教されている主がここに。
風呂からあがって直後、進が引っ越す前に使っていた部屋で、彼は硬いフローリングの上に正座して、美冬は仁王立ちで彼を睨みつけている状況。
「すみません」
「ぶった切りますよ」
「ほんとすみません」
「そもそも、何で美冬が怒ってるのか、理解出来てますか?」
「すみません」
「は?」
「すみません……」
すみません以外何も言えなくなっている。
ただ、進もそこまで馬鹿ではない。何となくはわかっている。
「なんなんですか。実の姉にあっちこっち大きくして。馬鹿なんですか??」
「あれは、仕方ないというか……」
「美冬じゃなんにもならないくせに?」
「慣れと言うか……」
「本当に叩き切りますよ? 慣れってなんですか? どういうことですか? 泣きますよ?」
「ごめんなさい……」
「謝られても困ります」
「て、ていうか、話がおかしくなってない??」
「いいえ。 もともとそういう話ですから??」
こうなった美冬は頑固だ。
「なんなんですか。 美冬という女が近くにいながら、実の姉に欲情して? それで?? は?? え、美冬って何なんですか?? あれ?? え??? あの、本当に泣いていいですか??」
美冬にとっては、とてつもない敗北を味わった状況だということである。それを慣れだなんだと言われてしまえば、本当に泣きそうになるのも仕方ない事だと言えよう。
「だからあれは仕方ないというか。そもそも実の姉に欲情は有り得ないって」
「してたじゃないですか」
「してない!」
そこは声を大にして言わなければならない。
だがそれだけでは不十分だった。
「ていうか! その言い方だと、アサノさん以外だったら良いって事にならないですか??」
「……。いやそんなこt──」
「なんでそこ一瞬黙ったんですか?」
「特に意味は」
「ありますよね?」
「な」
「ありますよね??」
こうなった美冬は頑固すぎるのだ。
進もなんとか言い訳を考えてみるが、美冬が納得しそうなものをなかなか思いつかないでいる。
はっきり言わない進にもイライラが増す美冬である。
「ええ、わかりますよ?? ご主人様は思春期ですから?? 見境なく発情するのも多少は仕方ないと思うんですよ??」
「ちょ、人聞き悪い!!」
「は? 間違ったこと言いました?」
「流石に見境は有る!」
「胸でかいひととか、そういうのでしょう?」
「そういうわけじゃなくてっ」
「は?? じゃあ何なんですか? やっぱり実姉限定ですか??」
「お願いだから俺をシスコンにしないで下さい」
「じゃあやっぱり巨乳がいいんですか?」
「だから俺は貧乳派だっつってんの!!」
「今のは流石に軽蔑しますよ」
「なっ、みふが言わせたんだろ!?」
「ただのロリコンじゃないですか、だって」
「大人でも貧乳は居るじゃねえか!! 全ての大人が巨乳だと思うなよ!?」
「じゃあ何がいいんですか? そろそろそこら辺はっきりさせましょうよ」
「だからなんでそんなに俺の性癖にこだわる!? なんの未練があんだよ!?」
「別にそんなのどうでもいいんですよ?? ご主人様はいつも中途半端ですし?? それに、ご主人様が浮気性過ぎるのでもうどうにかしたいだけですよ??」
「だから浮気してないし!!」
「はい?? あれが浮気じゃないなら何なんですか……って、もう話が遠のくじゃないですか。自分で墓穴を掘ってどうするんですか。 これさえ答えればこの話はおわるんですよ?」
「ぅっ」
進は唸った。
たしかに、それを答えてしまえばこの話はすんなりと終わるだろう。だが要は一言で言ってしまえば、進はむず痒いのである。
ただ、今までなんとなく中途半端に有耶無耶にして来て、ちゃんと伝えなかったから、挙句に今回の「あの体たらく」だから美冬が怒ったのであろうことも解った。
怒らせたまま、そのままで居るのも好ましくない。
「わかった、言うからな!!」
「ええ、どうぞ」
だから、進はめちゃくちゃ恥ずかしくなりながら、出そうにない声を出した。
「……。貧乳で」
「それで?」
「銀髪で」
「ん」
「ケモ耳ケモ尻尾……?」
……。
「変態じゃないですか。そんなの2次元にしか居ないですよ」
「みふのことだろ!?」
最後の最後で茶化されてつい口が滑った。
進が美冬を見ると、美冬は妙に勝ち誇った顔をしていた。片手にスマホを構えて。
「言質取りましたから」
と、録音してたらしい、ボイスレコーダーアプリの画面を見せびらかしてくる。
流石に、進は固まった。真っ白になった。
使い魔に弱みを握られる哀れな主人がここに。
「なので、次に浮気したらこれを元に裁判を起こすつもりですので覚悟してくださいね?? すぐに東京家裁ですからね??」
「やっぱみふみたいな貧乳要らない!!」
たとえ人間と妖怪の間でも、法は強いのである。
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