第113話 休日返上
月岡家の狐、口が悪いの多過ぎないか。
進は「非リア童貞」と嘲られ、どこか悟ったように思った。
否定も肯定もしない。ただただ 月岡家の狐って口悪いなあ、と。美冬然り、美夏然り。照憐は……アホで下品なだけか。みふパパはそこそこ普通。
訂正。
月岡家の女性陣の口が悪いのだ。誰の影響か。月岡のお婆さんか。あのヒトもかなり口が悪かったと記憶している。
「ところで非リア童貞。あなた何しに来たんですか」
そしてすでにこの呼び方が定着してしまいそうだ。だからと言って進にソレを阻止する手立てはない。
「初詣……と言いますかなんというか。親父にとりあえず連れて来られたというか」
「ふうん。つまり荷物持ちの使いっぱしり」
「そんなところです。そっちこそ、月岡家なんて大きな家で、正月の集まりとか無いんですか」
自分だけ何か言わされ続けるのは面白くない。
今現在、美冬だってその月岡家の親戚の集まりに行っていて、まともに連絡だって取れない状況。
花燐は「ええ、まあ」と掴みどころの無い返事をした。
「とりわけ、私と兄貴はそうも言ってられない状況でして」
「照憐君も? 魔導庁ですか」
「ええ。馬橋稲荷の件があったでしょう」
「ああ、えっと、学生魔導士なんとか」
「USM、あれ以来、本気出したみたいであっちこっちで暴れまくり。情報と強襲は、総出で休日返上」
「大変そうですね」
すでに抜けている進にとっては無関係の話だ。それに、元々妖怪退治が仕事で人間退治は専門外。
「なに他人事みたいなこと言ってるんですか。朝乃に言って手伝わせますよ」
「絶対嫌です」
†
もう4時間も電話してない。
月岡家本家、その台所で丸椅子に座って美冬は消沈していた。周りの女性陣は常に何かしらやっているか、喋っているかのどちらか。彼女のみ、出来上がった料理をつまみ食いしながら大人しい。
男共は酒呑みで煩いし、子供連中はスマブラに夢中。親戚の集まり等では、こうして女達が一番忙しいのである。
「美冬、食ってないで手伝え!」
ばあちゃんに叩かれ「はあい」とけだるげに応える。重い腰を上げ、料理が積まれた大皿を持ち長い廊下を歩く。
居間に近づく毎に、男どもの騒ぐ声とかが煩くなってくる。
で、広い居間に入って大皿を散らかった座卓の隙間に置いて、さっさと退散しようと踵を返す。
うるさい上に酒臭い場所などゴメンだ。
台所が静かかと言うとそうではない。
今はとにかく静かな場所にいたい。
そう思って美冬は台所に置いたままのスマホを取りに行った。
そのまま廊下を進み、玄関でブーツを履いた。コートは部屋に置いたままだ。もうこの場ですでに寒い。ブーツの紐を少し直す。
仕方ないから、薄着のまま外に出た。
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