第100話 餅は膨らんでも胸は膨らまない
月岡家の庭で、威勢のいい男どもが掛け声みたいに声を上げながら餅をついている。
そして美冬はそれを縁側に座って、ぼーっと眺めるだけ。ついた餅とかを料理したり、道具とか食器とかを洗うのは自分たちだ。男どもは遊ぶだけ遊んで、後片付けは女に押し付ける。
嫌なイベントだ。それなりに退屈で、かなり忙しい。自然とため息が出てくる。
行儀よく座ってはいる。そして男どもとか、はしゃいだ子供たちが
丁度終わったみたいで、男どもに「これもってってー」と呼ばれた。だるい腰をあげて、はいはいとつきたて餅を回収し、台所へ持っていく。唯一いいところは、この餅をその場でつまみ食い出来るところだけだ。
ちぎって、皿に乗せる。
醤油に砂糖はいつでもできるが、今日は餡子が大量にあるため、それをこれでもかとかけて食べるのが美味い。
とりあえずその写真を撮って、
だが既読はすぐにはつかない。
本当ならば、今すぐにでも電話、いやビデオ通話をかけて35時間は拘束して喋り倒したいのだが、そんなことは当然不可能。
メッセージも、ずっとやっていればただしつこくて、やかましくて厄介な狐になってしまう。この、どれだけ喋りかけるかというのが難しい匙加減だ。帰省する前に言っていた、1時間ごとに電話というのも当然達成できていない。
「そういえば……ご主人様、昼ご飯何食べたんだろ……」
いいながら、餅を噛んで箸で引っ張る。みょーんと伸びて、伸びて、伸びて、ちぎれる。
餅の甘さと餡子の甘ったるさで、口の中は最強に甘い。
「少なくとも、あんたよりは文化的なモノ食べてるんじゃない?」
隣で雑煮の具材をきざんでいる母が茶化した。
美冬は思い出す、朝に奇声を発した後は意識が吹っ飛んで朝食は無し。よって、今日は今のところ餅しか食べていない。
「餅しか食べてない……」
「食べすぎると太るよ~」
「脂肪は全部胸に行くから大丈夫だ、問題ない。それにほら、餅って膨らむじゃないですか」
「餅は膨らんでも胸は膨らまない。はあ……なんでこんな貧乳にしか育たなかったんだろ」
「成長途中です」
包丁を止めて、わざわざ一瞬だけ向けられた眼差しは、哀れみや後悔、そして謝罪の意が込められていた。
その根幹にあるのは、母親としての不甲斐なさ。
「母の胸を分けてあげたいわ」
「母さんの垂乳根などいりません」
「あ゛?」
「え゛?」
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