第101話 嫁が居なくて寂しいんでしょ

 今日も今日とで、スパルタな指導が炸裂し、そしてとりあえず鍛錬はお開きとなった。

 高千穂が己の使い魔に厳しいのは良いとして、それを手伝う進もまたひどく疲れる。

 

 休憩室でお馴染みの青いラベルのスポーツドリンクを買って、一口飲む。

「今年はこれでお開きになるのか?」

 高千穂に聞いてみる。

「そうだね。まあ、お開きになるのは鍛錬だけで、僕たちの仕事には終わりなんてないけどさ。変わってくれるとありがたいんだが」

「絶対に嫌だ」

 冗談を言い合って、互いに鼻で笑う。


「あれぇー、なんか居る~」

 と、ここで現れたのは、くせっ毛で長い髪をハーフアップにしていい感じに誤魔化した現役女子高生、香椎満里奈だ。

 進は見なかったフリをし、高千穂も一瞥だけくれてやるが無反応。

「ねえ、二人ともひどくなくなくない!? なんなの!?」

「なんかうるさいのが居るなって思って……」

 憐れんだ進は、一応反応だけしてやった。

「うるさくないし。進さあ~高千穂の手伝い来てるってことはぁ暇ってことでしょぉ??」

「いや全然暇じゃない」

「そう。進はこれから毎日僕のことを手伝ってくれる約束だからね」

「それ初耳なんだけど。そんな約束知らないし!」

 高千穂による後ろからの追撃にやられる。

「あのね、ケントさあ、ウチは強襲隊なの。あんたたち機動隊とは忙しさがちがうのよお、おわかりい?」

「忙しいのではなく仕事の効率が悪いだけだろう?」

「はあ?? なに喧嘩売ってんのぉ??」

「買ってもらって構わないけど、君がボクに勝てるとは思えないな」

 そして、この高千穂と満里奈は微妙に仲が悪い。いつからか、とにかく仲良くしゃべっているところを見たことがない。

「はいはい、終わり終わり」

 とりあえず中に割って入って、これ以上やかましくなるのを防ぐ。

 進としては、非常に疲れているので静かに休みたいだけなのだが。

「そー言えば、美冬は来ないんだね」

「みふはみふで忙しいので」

 そろそろ実家の餅つきも終わったころだとは思うが、今更召喚しても意味もないだろう。

「へえ~専業主婦?」

「今は実家に帰省して、そっちの手伝い。月岡家は大きい家なので正月は忙しいんだそうで」

「嫁が居なくて寂しいんでしょ」

 満里奈はからかうように笑いながら言う。

「そう、死ぬほど寂しい」

 だが、進は恥ずかしげもなく、水に流れるように、そしてその満里奈のからかうような口調をも受け流すようにすんなりと答えた。

「こっちからフッといてなんだけど、めっちゃむかつくぅ!」


 進はスポーツドリンクを一口飲んで、ふたを閉めた。腕時計を見て、午後6時を過ぎていることに気づく。

「じゃあ、そろそろ帰る」

 夕飯の準備がかなり億劫だが、インスタントなんて食べようものなら美冬に怒られそうだ。最低ラインで、スーパーの弁当か総菜か。

「ああ、お疲れ様」

 高千穂に言われて「お疲れ」と返す。

「あれ、もぉー帰っちゃうの?」

「そう、めちゃくちゃ疲れたんで」

 満里奈と長いことしゃべる必要もないし。

 さっさと休憩室出て、廊下を足早に歩いた。

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