第5話 Cはあります!
結局、行けばなんでも食べれるみたいな和食レストランで食事を済ませた。
美冬の「他人が作るご飯って美味しい……」と言う、本人に他意は無いだろうが、色々衝撃的な一言を聴き、家事を押し付けている事に罪悪感と感謝を感じつつそんなことを口に出来ない。
そして、以前までは、それが美冬を召喚したとき限定だったものを、恐らく今日から毎日頼ることになるのだろうと考えて、さらに心臓が痛くなった。
そしていま現在、進は美冬の悪魔の一言で罰ゲームに叩き落とされているのであった。
「あ、ブラ買ってないです」
そして二人でやってきたのはランジェリーショップ。進は男としてやってはいけないことなのではないかと言う不安を胸に、美冬の胸につけるものを美冬と一緒に見ているのである。
「ブラって意外と高い」
普段そんなことを気にしたことすらない進は、一着で2千円を下回るものは無く、3千円や4千円を優に超える値段を見て驚いている。
「はい。意外と高いですよ」
そして謎に自信満々な美冬の姿。彼女もさり気なく、女子アピール、女子は大変なんです苦労してるんです頑張ってるんですアピール。
「あ、これとかちょっと可愛くないですか?」
とどこからか引っ張り出してきたらしいモノを美冬は見せびらかす。
当然、男がそれをマジマジとみて「可愛い」なんて言うのは困難を極めるのだが、1つだけ突っ込まざるを得ない事があった。
「それ何カップ?」
「Fカップ用ですね」
そう。異様にでかかった。
「みふは何カップ?」
そこも重要である。これに関しては大は小を兼ねない。
「でぃ、D」
「はい、だうと」
目をそらして言った時点で終わり。そんなところで見栄を張っても胸は張らない。
「Cはあります!!」
「はいはい」
己の使い魔が胸のサイズを偽証する、悲しい出来事が今現在日戸進という召喚術士に降り掛かっている。主として情けなさを感じていた。
その後美冬は店員さんに微笑ましく見られながら物色し、彼女がなかなか真実を言わないので店員さんにサイズを測ってもらってやっと買えた。
そして美冬はやけに上機嫌。
「あの! Bはあったんです! アンダー65ですけど、B!」
「あーうん、よかったね、うん」
先程まではCはあると豪語してたのだが、それでいいのだろうかと進は不安になっている。
「Aしかないと思ってたんですけど、ほんとよかったですよ〜」
そんなに嬉しいものなのかと進は少し疑問に思いつつ、スマホを開いて「Bカップ」と調べる。それがどれだけ大きいのか……と。
「さっきアンダー65っつったっけ? Aと変わらんって書いてるけど……」
「胸のふっくらが違うんですよ、ふっくらが!」
美冬は無い胸をはるのだった。
†
「いっぱい買っちゃいましたね」
帰りのモノレールの中、二人とも両手に袋をぶら下げないといけないくらいには買った。服も日用品も、その他もろもろ。美冬用の布団は郵送で届くようにした。
「たまにはね」
本当に久々だった。二人が二人で勝手に遊びに行くことなんて今までにほとんどなかった。
一緒にいる時間は長くとも、堂々としていられなければそんなものだ。
「少し安心しました」
ふと、美冬が大人しくなって言い出す。当然、進はその意味を汲み取れず「何が?」と訊いてしまい、帰ってきた返答には何も言えなくなってしまった。
「帰れって言われると思ってて」
押しかけてきた当日は「何か問題でも?」みたいな顔していたくせに、内心は不安だった。普段は召喚されればすぐに返されていたし、ゴネて無理やり寝泊まりするくらい。
それでいきなり押しかければ拒まれることだってあり得ると思っていた。
「ああぁ。そっちの実家は何も言って無いんでしょ?」
「はい」
むしろ、美冬の両親は新幹線代を出してくれた。
「こっちも、親とは半分絶縁だし」
「……。その、ごめんなさい」
「だからみふが謝ることじゃないって」
進は日戸家という魔法使いの名家の生まれだが、いろいろあって両親と関係が悪い。それには美冬が深く関わってしまっていて、彼女自身責任を感じている節があった。
「俺とみふが一緒にいても、文句言うやつ居ないから楽だってこと」
「はい」
「まあでも、家が狭いからさ」
「……、そうですね。ちょっと手狭ですね」
「引っ越すのも面倒だし、あと3年くらい我慢して」
「はい」
見てすぐにわかるほど、美冬は落ち込んでいた。会話の中にそこまで落ち込む要素があったか。それとも、今更になって気付いたのか。自分が身勝手なことをしたとか、主人が気を使ったのかもしれないとか、そんなことを。
ただ、進が気を使ったのかどうか、それに関しては彼自身にとっても微妙なところだ。確実に言えることなら「みふが良いなら、べつにいいか」ということのみ。
彼は美冬になんて言えば良いかわからなくて、自分の頭を引っ掻いた。
そんな間にも駅についてしまった。車内アナウンスが到着を知らせ、モノレールは停車する。
進はひとまず立ち上がって「行くよ」と美冬を催促。それとなく、美冬が立ち上がった時に手を引っ張って、掴んで、握って、車両を降りる。
手のひらには、あとからしっかりとした美冬の握力が返された。
とりあえず、これが彼ができる最大限の意思表示みたいなものだった。
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