第189話 塩
「それで、その首の蛇はいつくらいから?」
姉妹が睨み合っている横で唯一マトモなサラが本題を進める。
「えっと……東京に来たときくらいからだったので……高校入ったと同時に……だと……思います……」
「つまり去年から、ね。去年? 進、それまで気付かなかったの?」
「学校に何人いると……。普通気付かないって」
「まあいいや。それで、一年間ずっとソレに縛られて、関節が痛むとか、不運なことが訪れたとかは?」
「……ぇっと……。関節というか、頭痛というか……のはあると思います……」
「不運なことは?」
「不運かどうかはわかりませんけど……その、よくモノがどこか行ったり、階段から落ちたり……。あ、あと、車のタイヤがパンクしたり、買ったばかりの家電が壊れたり、父の仕事が失敗したり、母の仕事先が潰れたり、とか……」
普通に反応に困る。
「困ってる事とかも増えた?」
「困ってる事……、強いて言うなら、その、幽霊? お化け? みたいなのが見えるようになったのが困ってます……」
「そうね、それは中々嫌ね」
特に、喋る犬に拉致られるようになったのは困っている。
「あの、これ、治るんですか……」
「うーん、それは一か八か、色々試してみるけど……」
サラが視線を移した方向には、美冬が何かを抱えて立っていた。
無言で芙蓉に近づき、そして何かを芙蓉に思いっきり振りかける。
振りかけると言うには少し痛々しく、投げつけるの域。バチバチと当たって芙蓉が小さく悲鳴を上げた。
「な、なに!?」
「塩です」
「は、はい??」
「塩です」
美冬はあくまで冷たく答えた。
芙蓉の首に巻き付いた蛇は、余裕の表情で舌をペロペロしている。
「だめか……じゃあこっちで」
そして今度投げつけたのは七味唐辛子。だがこれもダメージを受けたのは芙蓉のみ。その後もとりあえず効きそうなやつは何でも投げ付けたが、蛇はびくともしない。
蛇の天敵たる鷲やフクロウの動画を見せても駄目。美冬と美夏も蛇の天敵である狐なので、その姿になってみたのだがこれも効かない。
「じゃあもう物理的にやるしかないか」
サラが進を見やると、進は頷いて先程アリスのトランクから持ってきた様々な工具を広げる。
「とりあえずインパクトから」
インパクトのチャックに5ミリのドリルを刺してトリガーを引く。凄まじいトルク。よく穴が開けられそうな音が鳴ると、芙蓉は当然顔を青くして悲鳴を上げ、先程まで余裕ぶっていた蛇の方は流石に危険を察知したのか、シャーッと威嚇し始めた。
案の定、一切効果がなかったが。
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