第178話 ラーメン美味しい

 今日、進の学校は終業式だ。つまり明日から春休みで、今日は午前中に帰ってくる日だ。

 美冬は布団に寝転がり、進の帰りを待ちつつ例の如くツイ廃を極めている。そして、飯テロの如くラーメンの画像が回ってきた。午前中からなぜ、という疑問はさておいて。

「んにゃぁぁぁぁぁ究極にらーめんたべたい……」

 仙台の実家近くにある味噌ラーメンの店が最高に美味いのだが、それを食べるためにわざわざ新幹線に乗ると言うのも非現実的だ。

 いつものインスタントを買ってきて家で茹でるのもいいが

「なんか美味い焼豚食べたい……」

 流石にこれは家で再現することは難しい。つまり、食べに行くしかない。そうと決まれば、早速進にメッセージを送り、いつ家を出ても良いように着替えなど諸々準備をした。

 進から返信が来たのは、この1時間後だったが。


 進とは立川の駅で合流をし、ネットで見た何となく美味そうなラーメン屋に向かう。平日とはいえ昼時なので、サラリーマンが結構居て、10分ほど待った。鼻が敏感な狐である美冬は、待っている間さらに腹を空かせ、やっと席に座れた時のメニューを開く速度は音速並みだった。

 

 2人が注文したものが届き、念願のラーメンにありつける。

「いただきますっ」

 スープは熱々で、麺をすすれば体が満たされていく。

「あぁ……他人が作ったラーメン美味しい……」

 もやしと一緒にかき込めば、シャキシャキとした食感と、もっちりした食感がダイナミックコントラストを引き起こし、ジャンクフード依存症を悪化させていく。

 胃もたれしそうな脂が乗った焼豚も、吸い込むように食べてしまう。肉の旨味、スープの塩っぱさ、味噌の甘さ。下品に混ざりまくった味でも、ああ、これぞラーメンなんだと、理性が納得していく。


 ふと、隣で食べている進のラーメンが気になった。無言でレンゲを隣のラーメンに突っ込み、スープを啜る。

 どっちも美味い。


 そして無言で隣から焼豚が移動してきた。

 食べ盛りの男子高校生が、自分が食べたいのを我慢して、妖怪『食欲の塊』に具材を分け与えるなど。なんと素晴らしいことか。

 神か?

 有り難く食べるしかない。

 

 ラーメンのスープは、残すのは勿体無いが、飲み干すのは罪悪感がある。だが、そもそも罪悪感を感じる必要があるだろうか。

 これは、味噌ラーメンだ。

 味噌ラーメンから麺を取り除けば、実質、味噌汁だ。百歩譲って豚汁だ。味噌汁を飲み干すことに罪悪感は感じないだろう。

 そう、つまり、味噌ラーメンは、味噌汁なのだから、飲み干すことに罪悪感を感じる必要はないのだ。だって味噌汁なのだから。


 満たされた。

 体に足りていないものが埋まった。

 

 進の財布から小遣いが吹っ飛んだが、美冬がそれで幸せになったのだから安いものだ。

 心も体もホッカホカだ。


「ん〜美味しかったぁ〜」

 幸せとはこういうことを言うのだ。美味しいものを食べて、余韻に浸りながら、青空のもと家路につく。


 そして、進の視線を感じる。


「どうしたんですか? さっきから美冬のこと見て」

「珍しく髪の毛結いてるなって」

 ラーメンを食べるのだから当然だ。進の好みに合わせて伸ばしているが、ラーメンを食べるときは邪魔なのでポニーテールにしている。

「どうです似合ってます?」

「うん、似合ってる」

「可愛い?」

「うん」

「どのくらい?」

「世界一可愛い」

「ほんとですか?? 今度からこの髪型の頻度増やしますね」

 一つひらめいた。美冬によって最強に素晴らしいアイデアが浮かび上がった。

「じゃあ帰ったら髪の結き方教えてあげますね。そうすれば、美冬の髪もいじり放題ですし、いつでも美冬を好きにできるようになりますよ」

「……いや別にそこまでしなくてもいいや」

「なんで!?」

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