第12章 呪いではない

第183話 ひとりにしないで

 起きた。

 珍しく叩き起こされなかった。

 叩き起こされなかった代わりに、まだ寝間着姿の美冬がどっさりと覆いかぶさってきて、ガッツリ寝ている。

 

 それもそうだ。

 

 今日は始業式。

 昨日は春休み最後で、明日から学校だから早く寝ろ〜となるのが普通だがしかし

「明日からまたご主人様居なくなるのい゛や

゛だ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ひとりにしないでええぇぇぇ!!」

 と美冬が泣き叫び始めたので、寝落ちするまで美冬の装備素材集めに付き合うことにしたのだ。

 

 そして学校という心配がない美冬は、安心してぐっすり寝てしまっている。

 

 †

 

 美冬が起きて気付いたときには、進が家を出た後だった。

 発狂した。

 泣いた。

 何も言わずに出ていくとか、普通にありえない。帰ったら説教が必要だ。

 

 今日は言うべきことがいくつかあったのだ。

 クラス替えで菅谷飛鳥以外の女までとも仲良くなられたらたまったものではない。

 理系クラスだから女子は少ないとか言われているが、そんなものは関係ない。

 それにもしホモが居たらどうするのか。実はオジサンにモテる進のことだから、ホモにモテる可能性もゼロではない。

 

 させるものか。

 

 美冬はBLに興味はない。故に、進がホモになるのは許せない。そもそも進を他のモノに取られる時点でありえない。進の前立腺は美冬だけのものだ。

 

 急いでスマホで進の位置情報を調べる。一応、学校には居るらしい。もし寄り道しようものなら、その瞬間首根っこ捕まえて家庭裁判所に連行だ。 

 

 †

 

「じゃあ、とりあえず一人ずつ自己紹介から。名前と、趣味とか興味あることとか」

 クラス替え後のホームルーム、直後に陰キャに対する公開処刑が始まった。

 自己紹介、一年の頃もやったが、コミュ力高い陽キャがクラスの笑いをかっさらっていった中、進は名前だけ言って終了だった。

 無。

 正に、無。

 

 理系クラスだからか、男子が多い。3分の2が男子で残りが女子だ。

 車が好きだとか、ガンダムに詳しいとか、環境とか薬学とか興味あるだとか、自作PCを組んでるとか、実家が農家だとか。みんな何かしら持っている。

 対して進と言えば……人に言えることは何もない。

 

 一人の根暗そうな女子が前に出た。

 雑に伸ばしたのを雑に2つに結んだだけみたいな髪。

 文学少女とか、そういうのを一切超越した、完全な根暗。根暗と言うか、まずい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る