第2話 貧乳は希少価値でステータス
狭い布団に、一人と一匹(?)で無理やり入る。
寝る場所がこれしかないから仕方ない。
ただ、実際はこんなことは何度もあったのでお互い慣れている。
しかし季節は夏。あまり近付くと熱帯夜の蒸し暑さと相まって不快指数が急上昇の一途を辿る。だから、できるだけお互い離れて寝た。
進は少し考えていた。
何をと言えば、実は何も考えていない。「これからどうしようかな……」と、一応は彼なりに深刻に悩んでいた。
何故、前触れもなく美冬が勝手に来たのか。つまりは同居生活を一方的に始めようとしたのか。美冬は彼の召喚獣だからそこそこ頻繁に召喚して会っていたし、進が高校に入って一人暮らしを始めた後は何度も家に泊まっている。
だから今更一緒に住もうが何をしようが害も何もなく、むしろどうせ会うなら、召喚する手間と魔力を節約できるというメリットがある。
ただ、とてつもなく胸騒ぎがしている。恐怖とか、そういうのではない。妙で漠然とした不安みたいなものだ。
自然と、口からはため息が漏れた。難しいな、と。
彼女がこちらへ来たタイミングがこの日だったのも、彼の夏休みを狙ってのことだというのも簡単に察せた。
なんで夏休みを狙ったのか……ということも大方わかりやすい訳だが。
「みふ? まだ起きてる?」
訊けば、美冬は「はぃ」と少し寝ぼけた風に返事を返してくる。
意を決する、というほどのものではないけれど、少し緊張して口を開いた。
「夏休み、どこか行きたいところある?」
美冬は「ん~」とほんの少し悩んでから、適当に思いついた返答を進に聞かせた。
「海……とか行きたいです」
進にとっても若干、意外だった。美冬はインドア派だから、具体的にアウトドアな回答が出てくるとは思わなかったのだ。
「じゃあ、水着買わないとだね」
「はい……。選んでくださいます?」
「多分俺のセンスじゃまずいかも」
「えー。あぁ」
普段進が着ている服は彼の姉か美冬が選んで買ったものだから良いが、彼自身の服選びのセンスは悪い方で未知数。ましてや水着。ボディラインがほぼ完全に顕になるようなものではセンスを問われるのは当然。
それに、ひとつ大きな問題もある。
「それに、みふの体k──」
「また胸の話ですか?」
寝ぼけていたような声が、急にハッキリしだす。
「いやまってまだそこまで言ってない」
「体型と言おうとした瞬間に確定でわかりますから。それで? 体型がなんですか? 正直に言えば許してあげますが」
「貧乳だかr──」
「やっぱりぶっ飛ばしますよ!?」
美冬は起き上がり、進の胸ぐらを掴んで怒りというよりは鬱憤を撒き散らす。
「なんなんですか!? 貧乳貧乳って! そんなに胸がいいんですか!?」
「ま、まって! さっき正直にいえば許すって」
「フォローするタイミングを与えただけなんですけどっ! ほんっっとに! 正直過ぎませんか!?」
「ま、まあまあ。貧乳は希少価値でステータスって言うし」
半ばお約束のようなもので、凹凸の無い幼児体型の彼女の胸をイジるのは事あるごとにやってきた最悪最低な恒例行事。
その度に、貧乳にそれなりのコンプレックスをもつ美冬は7割くらい本気で怒っているのだが、進は寧ろそれが面白くてやっている節があるが、ただのセクハラである。
「うぅ、ご主人様は最低ですよ。人が気にしてる事をそうやって。美冬だってもうそこまで小さくないのに……。なんなら触って確かめて下さいよぉ」
そして今回は泣きに入った。泣きながら寄せて見せてもさみしいような。それに、涙を流してなくても落ち込まれてしまえば進も罪悪感を感じてしまう。
「やっぱり、ご主人様は大きい方がいいんですか……?」
なんだか話が少し違う方向へ進んでいる。セクハラ発言を何の躊躇もなく繰り出す進はクソ野郎極まりないのだが、それが回ってどうして彼女の発言に至ったのか。
なぜ、彼の好みの問題に話が変わったのか。それも美冬は真面目な顔で、本当に答えを求めているまでに。
さすがに、ここまで来れば進自身で最適解に気付く。同時に、これからは下手なことも言えなくなったという事も。
「俺があんな脂肪の塊を好くと思う?」
「思いますけど」
「え」
「普段の発言から」
「……。すみませんでした」
普段から使い魔にセクハラを繰り返す最悪な主人がここに。
「じゃあ何でいつも貧乳貧乳って!」
「反応が面白かったから……」
「は? 本当にぶった斬りますよ!?」
美冬は盛大な溜息を吐いてから、進を掴んでいた手を離すとバタリと倒れ込んでしまう。「疲れました」と少し文句を言って、枕代わりのクッションに顔を埋める。
ただ、少しズラして視線の先に進を捉えた。彼は少し居心地が悪そうに天井を眺めていて、なんだかバカっぽい。
美冬だっていつも考えてるし、わかってる。実際に、マジで、言われるとムカつくけど。ただ、今ので言質は取れたから良しとした。
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