第208話 人間としての尊厳が失われた
「日戸君おはよう……って昨日より酷くなってる」
心底心配そうな声をかけてくれるのは、クラスメートの井上芙蓉だ。相変わらず首元には蛇が巻き付いている。
「ああ、おはよう……」
「やっぱりまだ美冬さん戻らないの?」
「ああ、まあ……うん……」
「なんか疲れてるね。大丈夫?」
「いや、昨日は色々とあって」
「色々?」
「人間としての尊厳が失われたんだ……は、ははは、はははは……。はぁぁぁぁ」
「よくわからないけど、大変そうだね」
むしろわかってほしくない。決して、わかってほしくない。
「話ガラッと変わるんだけど」
「うん」
「井上さんの家って、今日の夕飯は何の予定?」
「決まってない……けど、どうして?」
「みふになに食わせようか悩んでて、井上さんの家の献立でもパクろうかと思ってたんだ」
普段、料理は美冬に任せっきり。短い一人暮らし期間は、だいたいクックドゥかスーパーの惣菜だった。「男の一人暮らしなんてこんなものだよね」という料理を、1回や2回程度ならまだしも、これからいつまで続くともわからない日数、やるわけにも行かない。
昼食は、補助無しでも食べれる最低限に文明的な妖における尊厳ある食事として、具が少し豪華なおにぎりとサンドイッチで妥協してもらっている。
なので夜くらいはマトモなものを食べさせたい。
「あ〜……ごめんなさい参考にならなくて」
「いや、自分で考えない俺が全部悪いから」
「そうだな……そうだ、私が作りに行こうか」
「……え?」
「まだこのあいだのお礼も出来てないし。こんなのがお礼っていうのもアレだけど、美冬さんが食べれそうなもの、私が作ってあげるよ」
「ほ、本当に?」
にっこり笑顔の芙蓉から後光が射している。
仏か。天使か。女神か。
夕飯を作ってくれる。ただそれだけなのに、今はそれが何よりもありがたい。
感極まって、半分くらい泣きながら礼を言った。
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