4章 初恋の相手は、嫁の敵
第28話 イヌ科ですが?
夏休み。それは短いようで、実は長い。
夏休み初日に買い物に行ったり、その数日後には進の実家に行ったり、お盆休みに入る前から美冬の実家に行き……と色々忙しい日々を過ごしてきた。
その後、教授の研究室へ行って研究の手伝いバイトをしたりしてきたが……とうとう8月の中旬、お盆休みに突入して、やる事がなくなった。
研究室の手伝いも、教授が実家へ帰ったのでしばらくは無い。あの研究バカの変態教授が実家に帰るなどという律儀なことをしているから、人というのはわからない。
進は学生だから、夏休みの宿題……とかあるのだが、高校生の宿題の量はそこまで多い訳ではなく、美冬の監視の元、既に終わっている。「どうせ夏休み最後の日に泣きながら徹夜でやるんですから!」と、般若の如く剣幕で、手伝いの前後に、必死こいてやらされたのだ。
本当にやることがない。
出かけるにも何も、お盆だからどこへ行ったって混んでいる。そもそも高校生と言う身分で、遊ぶ金だって大して無い。
そもそもお盆休みとは。それは、先祖の霊を祀る事だ。休みに乗じて、リア充の如く海とかプールとかバーベキューとかで騒ぐのはお門違いである。
と、夏休みに遊ぶ友達が居ない進は、家でゴロゴロして、気まぐれに美冬の尻尾をモフって怠惰に過ごすのみ。
「……。」
だが怠惰にも限界はある。
進はモフっていた尻尾を手放し、代わりにスマホを持った。特に何も無いが、垂れ流しのテレビを観るのも飽きたし、適当にネットサーフィンでもして暇を潰そうという魂胆。
だが、美冬の行動は早かった。
執拗くも、夏毛でもふもふ感の薄い尻尾を主の顔面に擦り付けて「止めるな」アピール。
「まったく、犬じゃないんだから」
「イヌ科ですが?」
進のクレームには、キョトンとして答える。狐の行動はネコ寄りだと言われるが、この甘え上手はイヌ科譲りか。
片手はスマホ、片手は尻尾という中々にハイレベルな暇つぶし。一方の美冬は、尻尾をモフられながら垂れ流しのテレビを眺めるだけと言う微妙な感じ。
暇とは、実に面倒くさいもの。
……。この時をもって、そうも言って居られなくなったのだが。
突然現れた、メッセージアプリの通知。送り主は、姉の朝乃だ。
「……。みふ、出かける準備して」
丁度スマホの画面に強烈な暇つぶしの材料が出来あがってしまった。
あまり嬉しくもない材料だが。
美冬も一瞬不思議そうな顔をして進を見たが、その時の酷く険しくなった進の顔を見て、何かを察し、頷いた。
†
進と美冬がやってきたのは御茶ノ水のとある大学病院。
さすがは都心の大学病院なだけあって、病院には見えないほどの巨大な建物。
そんな感想はどうでもよく、ヒートアイランド現象のせいでとにかく暑いコンクリートジャングルから早く逃れたくて、建物に逃げ込んだ。
事の発端は、進の姉、朝乃からのメッセージだった。
従弟が病院に運ばれた、とのこと。
妖退治の最中で、攻撃を食らってしまったらしい。
とても危険な状態だから、お見舞いに行ってやってくれ、と。
進の従弟と言えば、美冬の妹──美夏の主だ。
そもそも、美冬にとっても他人事ではない。
すぐに支度をして2人は出てきたわけだが······。
「どこが生死の境……」
その病室に入った途端、ベットの上の従弟と椅子に座っている朝乃が、2人してゲーム機を両手に持って一狩り行っているのだ。
「罠仕掛ける!」
「OK」
むしろ、ハンター達によってモンスターが生死の境を彷徨っている状況。
「姉さん、これどういうこと?」
「ちょ、いま話しかけないで!!」
殴ってやろうかと思った。
†
2人の狩猟が終わるのを待って、やっと本題に入れた。
「で、お前はどうしたんだよ」
と、進はジト目で従弟──
「ぁ? あれだよ、あれ、ヤタガラスってのが出てきて、めちゃんこにやられた」
と、1人で爆笑しながら答えやがる野郎。
「ヤタガラスって悪霊じゃないだろ」
「なんか、現代のブラックな日本に嫌気がさして悪霊になった個体なんだと」
「なんだそれ……。それで、怪我は?」
「左足ポッキリ、右腕打撲アンド脳震盪」
「よく生きてたな、それで」
包帯でぐるぐる巻きにされた左足が吊るされている。見ているだけで痛々しい。
「でもこの程度なら俺が治療したら5時間で治るな」
だが、その程度の怪我で進は安心した。
「それで、なんで姉さんが居るの」
と、今度は朝乃の方に視線を移した。
「その場に私も居たから。みなちゃんを1人にするのも可愛そうだったし」
「みな? 居るの?」
進の問いに朝乃はにっこり笑いながら進の方を指さした。
「す・う・さ・ま!」
そこからが早かった。
背後から気配無くすりよってきた美夏が、そのまま進に抱きつこうとし、それをすぐさま美冬が割って入り阻止。
「甘いですよ、美夏? あなたのやろうとしている事など、手に取るようにわかります」
「へぇ? でも、所詮はゴミ狐。詰めが甘い」
美夏は笑い、その姿は空虚に消える。
「!?」
幻影術。狐の得意な妖術。つまり、先程まで美冬がやりあっていたのは、幻の美夏。つまり、化かされていた。
ならば本体は……!
「なっ······!!」
既に、進に抱き着いて激しそうなスキンシップを……
「させるかぁ!!」
その前に美冬が横からドロップキックをぶちかまして、なんとか回避した。
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