第160話 次やったら刺しますから
美冬は誰かの誕生日というのはどうにも好きになれないでいる。自分のも他人のも、両方。特別な日であると言うのに、必ず何人か集まってしまうからだ。
朝乃は明日も仕事だからと、ケーキを食べたら早々に帰っていったが、不完全燃焼感がどうにも残った。
そして現在、進は居間でロードスターのプラモを組み立てていた。ニッパーを駆使し、有機溶剤の匂いを充満させながら、慣れない作業に苦戦している。
あれがハメ合わないとか、これが見当たらないとか、パーツが吹き飛んだとか喚いている。
「くそ、妖怪パーツ隠しめ……」
という妖怪がネット上に創作された昨今、割とマジで出現するようになったらしい。
ニッパーを持っていないタイミングを見計らって、隣に座って肩によりかかる。
こんなだったら、組み立てが要らないやつにしておけばよかった。進が敢えて鬱陶しく思う様に体重をかけて、髪の毛を垂らし、耳をピクつかせて頬や耳に当てる。
塗装用のインクを買いそびれたのは失敗というかある意味正解だったと言うべきか。
「……疲れた。また今度にしよう」
結局、進は作りかけのロードスターを箱にしまって、置き場所に困った結果、美冬の本がしまってあるダンボールの上に置いた。
折角貰ったものだからと張り切って作ってみたものの、己の手先が不器用すぎる事に軽くショックを受けるほどだった。
猫背になって固まった身体を伸ばすと、突然背後からドサッと衝撃が加わる。
「プレゼント、あれだけで良かったですか」
美冬の、どこか機嫌の悪い声だ。
「実は、もう一つ有るんですよ」
「え、なに、もしかして」
「はい」
「モフらせてくれるの?」
「もう! それわかってて言ってますよねえ!?」
背後から乗りかかってきて怒鳴る。
後ろによろけて倒れそうになるのをギリギリで堪えて、怒らないでよと笑う。
「じゃあご主人様が何欲しいのか言ってくださいっ」
奇しくも背負った状態になって、美冬の美脚太股を両手でさすってしまう。
「じゃあモフ──」
「モフる以外でっ」
「えー」
「さっき、お義姉さんに頭撫でられてましたよねっ」
「だって嫌がるとしつこいし」
「ご主人様を撫で撫でしていいのは美冬だけなので! そこんところよろしくお願いしますからねっ。次やったら刺しますから」
「わかったわかった」
「で、プレゼントは何がいいですか??」
「じゃあ撫でて」
「……まあ良いでしょう」
美冬はするすると降りて、その場に座った。
ん! と床を叩き、進にも座るように促す。
そして大人しく従って座った彼の頭を捕まえ、胸に抱き寄せて、仰向けに倒れていく。完全に、進の体重を受け入れる格好になる。
その状態で、彼女がいつも彼にされている様に頭を撫でた。
「ご主人様が16歳か……」
そう思えば、美冬は彼と16年の付き合いになる。
「最近は幼児退行してる気もしますけど」
まるで幼い子のように胸を探している様は、可愛らしいものだが。
「それを言うならみふもだろ」
「否定はしません」
こうなる様に誘導したのは間違いなく美冬ではあるが。そして普段甘えるのも彼女の方だ。
「……」
ふと、進が起き上がって、横にずれた。
そしてすぐに美冬を抱き上げて、膝の上に座らせると、そして抱き締めて頭を撫で始める。
「やっぱコッチの方が良い」
美冬は、急な事で頭の中がテンパり、心臓が変な動き方をする
「……ですね」
そして発することが出来たのは、たった一言の同意のみ。
美冬も、一度座り直して、体重をすべて進に預けた。
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