第201話 今何でもするって言ったよね

 あの後、土日を挟んで平日。

 今日も今日とでうるさい教室に行かなくてはならない日が来た。

 学校にいる1時間は長いのに、なぜ土日はこんなにも短く感じるのか。時間は相対的なものだとは言うが、こういう意味ではないだろう。

 

「日戸君、おはよう」

 さて、ボッチを極める進に対し、朝の爽やかな挨拶をして来るようなクラスメートなんて居ただろうか。

 声も聞き覚えのあるような無いような。

 ふと見上げてみると、そこには井上芙蓉らしき人物がいた。いや、本人に間違いないのだが、美冬に散々ブスなどと罵られていたあの根暗喪女の姿はない。陰キャには間違いないがかなり小綺麗な街に居る女子高生レベルにまで変貌を遂げた芙蓉が居たのだ。

 

「先週はありがとうね。あれから色々と凄いことが起きたんだよ。車のパンクも保険金が結構出そうで、タイヤもトーヨーの高いやつに変えられるんだって。それにお父さんの仕事も新しいプロジェクトが入ってきて、お母さんの新しい職場も決まりそうで」

 嬉々として喋り倒す芙蓉の首元には相変わらず蛇が巻き付いている。

「ああ、この蛇さん、寂しいからって付いてきちゃうんだ」

 しかもどこかドヤ顔しているような雰囲気さえある。蛇に表情なんて無いはずなのに。これがトウビョウの力だとでも言いたいのか。

「うん……順調そうで何より」

「ホントに、日戸君たちのおかげで。なにかお礼したいんだけど」

「いや、何も要らないと思う。あの人たちも仕事でやってるだけだから」

「そう……」

 少し残念そうな感じを出しながら、丁度チャイムが鳴る。

「あ、じゃあ、ほんとに何でも言ってね! できる範囲で何でもするから!」

 とにかく誤解を生みそうな事を言って、席に戻っていった。

 

 何でも……か。

 ふと進は考える。何でもするなんて中々言われることもない。かなり貴重な経験だ。

 これはかなり悩む。色々と想像が膨らむが……最終的に行き着いた答えは

「あ、今何でもするって言ったよねって言わせてもらえばよかった」

 人生でも有数の後悔となった。

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