第171話 一緒に死んでください
土曜日と言えども、時間が帰宅ラッシュと重なって駅のホームは微妙な混み具合となっていた。そして、美冬は悩んだ。位置取りをどうするべきか。初花とは途中まで電車が一緒で、美冬は初花の隣には立ちたくないし、進を初花の隣に立たせたくもない。
なんとか理由を付けて別の電車に乗るか。トイレに行くふりとかして。
なんなら今ここで初花を殺すか。電車が来たタイミングでホームに突き落とせば十中八九肉片と化するだろう。
何十トンもある車両が時速数十キロで進入してくるのだ。その運動エネルギーは凄まじいものとなる(主人曰く)。
やるか。
「みふ?」
やるなら今だ。
「みーふー?」
今しかない。
「ミフユサン、鼻血出てるよ。大丈夫?
「……はっ」
気付いた頃には、進がハンカチで美冬の鼻を押さえ、いつの間にか暴走しかけていた魔力の制御を開始していた。
「あれ、大丈夫?」
初花が心配してくるが、美冬はガン無視をキメた。なぜいまさらコイツなんぞに心配されなければならないのか。10年遅い。10年。前は四肢から血が流れ出ようとも何も言わなかったのに。
「うん、ちょっとあっちで休んでから帰るよ」
かすり傷に対し全力で治癒魔法を使ってくる進とは大違いである。
「わかった。じゃあ、悪いけど先帰るね」
丁度、電車が来た。
進は取り急ぎ「じゃあまた」と挨拶して、ベンチに向かいつつ初花を見送った。
さて、美冬にとっては結果オーライ万事良しである。初花は消え去り、そして進が構っている。
乱れた魔力の流れを整えると同時に、切れた鼻の血管を修復している。
「殺気、あからさま過ぎ。それにみふが殺人犯になって魔導庁に滅っせられるトコなんて見たくないからな」
「じゃあ美冬が初花を殺したら、美冬の事はご主人様が殺してください。で、その後ご主人様も一緒に死んでくださいね」
「なんでだよ」
「あの世でも一緒ですよ」
素直な笑顔がとても眩しい。
「そういえば、みふは何でそこまで初花ちゃんのこと嫌ってるのか知らないかも」
確かに色々とあったが、そこまでか、と言うところはある。美冬の自業自得という所も無きにしもあらず。
「そんなの恋敵だからに決まってるじゃないですかあ」
「……。そう、そういうこと……?」
美冬は努めて笑っているが、段々と自信を無くす様に黙っていって、ついには目を逸らした。
鼻血は既に収まった。
美冬は立ち上がって、進の手を握る。
電車を待つ人の列に並ぶ。
「明日も忙しいでしょうかね」
「……どうだろ。あんまりハードなのはいやだな」
「ご主人様、実質休み無しですものね」
ほんとだよ、と笑う。
学校、土日、また学校と、12連勤は確定。
「あ、そうそう。実はさっき教授から余ってた変若水貰ったんですよ。帰ったらまたショタ化してくださいっ」
「えぇー絶対やだ」
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