第187話 これでも食ってさっさと死ね
この状況はおかしい。
非常におかしい。
なぜ。
なぜか。
この狭い間取り1Kの部屋に、狐の妖が2匹、犬1匹、人間2人とかいうわけのわからない空間が出来上がっているのか。
これは、ブチギレても良いのではないだろうか。
昨日、あれだけ主には「あのブスには関わるな」と言っておいたのにも関わらず、そのブスが、今ここに居て、我が家の貴重な食料を食い荒らしているのだ。
「ゴミ姉え、福神漬け足りない持ってきて」
加えて、馬鹿な妹までも居る。
こいつはまじで後で殺すことにしよう。
さて。
なぜこの様な惨状になってしまったのか。進を問いただすことにしよう。
だがくどくどと説明を聴いていても、怒りと哀しみで状況が上手く飲み込めないので、簡潔に要約する。
進の学校が終わる。
↓
校門でアリス(GS Fの妖)、美夏(美冬の妹)、サラ(喋るボーダーコリー)が待ち構えていた。
↓
曰く、ブス女(井上芙蓉)の件を聞いてやって来たという。
↓
色々あって井上芙蓉を拉致る。
↓
イマココ
「あの、それだったら我が家ではなく市ヶ谷に連れて行ってもらえませんか? なんで我が家なんですか?」
「美冬、チュールって意外と美味いわ。猫用だと思ってたけど犬のわたしでも十分イケるわ」
「犬は黙っててください」
「ゴミ姉え、福神漬け早くしてよ」
「てめえは仙台に帰れよ。それとご主人様から離れなさい」
「あ、あの、えっと……」
「ブス女、あなたはさっさと死んでください」
「ひぅっ」
段々と処理が追いつかなくなる。
なぜ急にこの犬畜生共が我が家に来て、その飯の準備をせねばならぬのか
美冬は深呼吸した。
そしていま一度考えた。
だがやはり納得行かなかった。
冷蔵庫から福神漬けと、秘蔵のしそ巻きを取り出してテーブルに運ぶ。
一瞬、美夏の頭にぶっかけてやろうかとよぎったが、なんとか堪え落ち着く。
美冬は慈悲深い狐である。蛇に呪われ、謎の集団に拉致られたブス女にも、極僅かながらでも情けをかけてやらない事もない。
内心「これでも食ってさっさと死ね」と思いつつ、井上芙蓉の目前にしそ巻きを置いてやった。
「あの……これは……?」
「しそ巻きです。まあ東京の田舎者は知らないでしょうけども、食え」
「え、しそ巻きあるの?」
やっと進が気配を表した。
帰宅してから部屋の隅でずっとアリスと連絡を取り合っており、美冬に状況を説明してから完全に空気と化していた。
「ご主人様の分はありませんっ! もう怒ってるんですからね!」
「なっ……!」
なお、なぜしそ巻きが秘蔵なのかというと、進が最近ドハマりしているためだ。
「ご主人様のお人好しで頼まれたら断れない性格のせいで美冬が苦労してるんですから」
「人助けだと思って……」
「どこで誰が死んでようが美冬には一切関係ありませんし? 人助けなんてする気もありません」
隣から微妙に聞こえる声で「相変わらず薄情だなあ〜」とサラが言ったのを美冬は聞き逃さなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます