第33話 一緒にお風呂に入る仲じゃないですか
昼食を終えたら、夜まで暫くはゆっくりと出来る。
適当に垂れ流してるテレビでは刑事ドラマがやっていて、いま丁度人が殺されたシーン。
それを美冬は寝転がりながら眺め、一方で進はスマホでネットサーフィン。
そして、暇だ。
「お掃除でもしましょうか……ん……でもめんどくさい……」
美冬は独り言を言い出す。
それを進が見ると、尻尾が揺れて水色の下着がスカートから見え隠れしているという惨状。色気も何も無い。
「みふ。パンツ見えてる」
「じゃあ見ないでください」
見事な一蹴。
美冬は起き上がり正座をして、スカートの裾を直した。
「ご主人様ってデリカシーないですよね」
そして文句を垂れる。
「でも黙って見続けられるよりマシじゃない?」
すると、美冬は一瞬黙って悩んだ。
「まあ……ええ、まあ……。でも、今更何だって話ですよ。毎日見てるじゃないですか」
真顔で言ってのけた。
事実。美冬は尻尾があるので、ほとんどスカートしか履かない。
一応、彼女の父親がジーンズを履く時の様に、美冬も尻尾を格納出来るらしい。だが面倒臭いのか、疲れるのか、理由は定かでは無いが美冬は出しっぱなしにしている。
毎日スカートで生活していて、座った際や寝転がった時などはかなり見えてしまう。
もはや進もそれに慣れに慣れすぎて、今更見たところでどうということは無いのだが。
「恥じらいを持って欲しいなって」
ということである。
だが美冬はどうでもいいらしく「はいはい」と適当に返事をして、スカートを翻しながらまた寝転がったのであった。
†
夜。
進はシャワーを浴び終えて、タオルで雑に髪を拭いていた。
9月初めの残暑の中、シャワーだけでも湯を浴びれば体には熱が籠る。せっかく洗った身体でも、汗が出てきてしまう。
適当に身体から水気を取ったら、さっさと服を着ようとした。
1Kらしく、非常に狭苦しい洗面所だ。左右を風呂とトイレに挟まれ、申し訳程度の洗面台がそこにあるのみ。1Kの間取りで風呂トイレ別で洗面所独立と言うだけでかなり贅沢な部屋だが、これもまた、進の姉である朝乃が「家賃はどうせ、じいさんが払うんだから」と、美冬が入り浸ることを想定して選んだ部屋である。
そんな時、扉が盛大に開かれた。
完全に美冬と目があった。
そして美冬の視線が、上から下へ、下から上へ、往復する。
「あら、失礼しました」
「いっっっや、見てんじゃねえよ!!」
赤裸々に全てを見られた後に、あたかも偶然だと言いたげに。
「えー? トイレ行きたいんですけど」
トイレに行くには、脱衣場を通る必要があった。
だが、そのせいで全裸を見られた進にとっては、たまったものでは無い。ノックをするなりして、確認くらいとって貰いたかった。
「俺が居んのわかってただろ??」
「何を今更。一緒にお風呂に入る仲じゃないですか」
「それとこれとはまた別だろ……。恥じらいを持てよ……」
「恥じらうほど無いのに何言ってるんですか」
美冬が不敵に微笑んだ。
「いま何を見て言った……?」
「なにって言われても……そんなことより、トイレ行かせてくださいよ」
そしてさっさと逃げられる。
進がショックで真っ白になっている最中、美冬はトイレの扉の向こう側へ消え去ってしまったのだ。
このやり場の無い怒りと、辱め。
彼は、しばらく動けずに、その場で呆然と立ち尽くし、己の惨めさを噛み締めた。
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