第55話 『好き』とか『愛してる』とか、そういう“程度の低い言葉”では表わせないですよ
「あの、美冬ってモフる以外の魅力って無いですか」
「身の程を知れ、貧乳」
銀髪ロング獣耳貧乳少女、美冬のいたいけな相談は、金髪ツインテール獣耳巨乳少女、菊花によって一蹴された。
「お前な、胸もケツも無ぇ女に体の魅力があるとでも思ってんのか?」
「希少価値でステータスですよ!」
「変態にしか好かれねえ」
菊花は、緑茶を啜った。
さて、ここは日戸進と月岡美冬の住居であ
る。
日戸進は例にそって学校に行った。
菊花は、今日はバイトが休みだからとこうしてここにだべりに来ている。
「とにかく聞いてくださいよ」
「勝手に喋れ、頷きながら右から左へ流してやっから」
メイド喫茶で鍛えた能力
同僚のメイドどもが休憩時間とかひたすらうるさいのを、受け流すスキルである。
「昨日、美冬は獣状態だったんです。そしたらすっごいモフってくるし、抱っこもしつこいしで、スキンシップがエグいんです!」
「ほーん、それで」
「お風呂上がりに、人状態になったら、一切触れてこなくなったんです!! これ、つまり、モフれなきゃ価値がないって事じゃないですか」
「諦めろ。愛玩動物の仕事に徹しろ」
「それ、美冬が妖怪である意味が無いじゃないですか」
「お前、アイツの何なんだよ……恋人にでもなりたいのか?」
「嫁ですよ 死んだあとも墓場まで添い遂げる嫁ですよ」
「死んだあとくらい開放したれや」
「は? 何言ってるんですか。うちの主人は既に美冬が居ないと生きていけない体ですけど」
「その発言を本人に聞かせてやりたい」
そもそも、と前置きしてから菊花は言う。
「お前がどうしたいのかが、よくわからねえ」
「言わせないでくださいよ。恥ずかしい」
「真顔で言われても恥じらいを感じねえよ」
強いて言うなら
「体の何処かは常につながっていたいです」
「お前は合体ロボか。まあ、あれじゃねえの? やつも男だし、女にベタベタ触れられたら──」
「それは無いですよ。ご主人様、色々頑張らないと興奮すらしてくれないんですから」
「不能じゃね?」
「実姉の体見ておっきくしてましたけどね」
「それもう病気だろ」
思い出したら今でも腹が立ってきた。
朝乃は殺したくなる。姉のくせに出しゃばるとかふざけている。
進は菊花の言うとおり病気だとしたら今すぐ病院にブチ込もうか。いや、監禁して自分以外の誰とも会えない環境を作ってやろう。
「なんか、美冬の体には耐性が出来ちゃってるみたいで……」
「もう諦めろよ。魅力云々の次元じゃねえよ」
「嫌ですよ。なんとかして、こー……なんとかしたい……」
菊花はため息を吐いた。
「お前さ、なんでアイツのためにそこまでしてんの? イイヤツ……かどうかは知らねえけど、他にも男は居るだろ?」
「……。」
美冬は黙って菊花の目を見た。
一般論で言うとそうなのだ。
「アイツのどこが好きでそこまでできんのか、オレにはワガンネ」
「『好き』とか『愛してる』とか、そういう“程度の低い言葉”では表わせないですよ。美冬の気持ちは」
「……じゃあ、依存か崇拝?」
「そこまで盲信的なバカに見えます?」
美冬は、茶を一口飲もうとして、もう湯呑に入っていないことに気づく。
急須から注ぎ、程々に丁度良くぬるくなったソレを啜った。
「確かに……依存って言われたら否定しきれない気もしますけど」
崇拝は違う。彼は結構バカなところがあるし。
「物心つく前から一緒に居て……、良いところも悪いところもいっぱい知ってるし、それで一緒にいたいって思うんです。色々なところでいっぱい助けてくれました。本当に優しいんです」
かっこいいところなんて皆無ですけどね、と最後に付け加えて。
「ほーん……」
「で、なんでこんな真面目な話になってんだっけ?」
惚気けられるだけなら面白味も何も無い。
「美冬に魅力が無いのかって言う話ですよ」
「じゃあよ? 直接訊けばいいんじゃね?」
言うが早いか、菊花はスマホのメッセージアプリを開き、進とのトーク画面を開く。
「え、ちょ! まって!!」
「もう遅ぇわ」
神速のタップで、すでにメッセージは送信した。
慌てる美冬の形相は、非常に見ていて愉快である。
普段ほとんど真顔の彼女が、目を真ん丸にして瞳孔を揺らし、口を半開きにし手を伸ばしてくる。
スマホをひったくり、文面をわなわなと確認する。
『美冬の身体に魅力ってあると思う? モフモフ以外で』
と、超ドストレート。
既読はなぜか既に付いている。
そうだ、今は学園祭の準備期間であり、そして彼いわく「暇になったり忙しくなったり」だ。
丁度暇だったのか。
次いで来たる返信は
『美脚』
だった。
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