第116話 よくこんな怖い女と付き合いましたね

 押入れの奥から、古ぼけたアルバムを引っ張り出した。

 それを床において、一枚目をめくる。

 白黒の写真だ。

 4人の大人と6人の子供が写っている。

「これがばあちゃんよ」

 と、左から2番目の可愛らしい女の子を指差した。

「へえ……」 

 だが求めているのはこれではない。ババアの子供時代のことなど興味もない。

「ちなみのこっちが、あの日戸のジジイだよ。大原で隠居やってるアレ」

 その2つとなりの男児を指す。

「へえ……。え、あっちのおじいちゃん?」

「猿みたいな顔してんだろ。人間は猿だからな、へっへっへっ」

 狐が人を猿と笑うとは。



 何枚かページをめくっていくと、段々とピチピチなギャル時代のババアの写真が出てくる。

 にしても、当時としては非常に美人なのではないか。

 都会の背景に、スポーツカーのボンネットに腰掛けて腕を組む気の強そうな、だが確かにきれいなボディコン女。

「これは、まだじいちゃんと結婚する前な。付き合ってた頃よ」

「おじいちゃん、よくこんな怖い女と付き合いましたね」

「ちげえよ。ばあちゃんが無理やりとっ捕まえたんだよ」

「うわあ……すごい……」

 美冬は思った。もう少しおしとやかに行けば良いのに、と。

 

 次にめくると、決定的にほしい写真が見つかった。

 ばあちゃんの、ビキニ姿である。

 そう。際どい水着姿だ。色あせたカラー写真に写った、自信が無ければ出来ない様なすごいポージングをキメる、ケバい女。

 今のばあちゃんと見比べると面影がある。

  

 そして、自信満々に扇情的な姿を写す、貧乳。



 その瞬間。

 美冬は記憶を消した。

 自分は何も見なかった。何もなかった。こんなアルバムなど、存在しない。



 良い。全ては、これで良い。



 何も見ないまま、思い出さないまま、ページを次々めくった。

 やがて色あせたカラー写真でも、色がきれいになっていく。

 

 やがて、一枚の写真が目についた。



 大人になったばあちゃんと、じいちゃんと、その腰くらいの高さしかない背の、子供が3人。

 そのうちの一人が、自分の父親であることに気付く。

 意外と面影があるし。

 そして、その次に目に写ったのは、その父親ともう一人の少女が一緒に写っている写真だ。

 

「これ、お母さん……ですか?」

「ああ、わかるかい」

「何となく……」

 妹にすごく似ている。いや、逆だ。妹が若い頃の母に似ているのだ。

 自分は父親似、美夏は母親似だ。だが毛色は逆を引き継いでいる。母はプラチナで自分もプラチナ。父はアカで美夏もアカ。

「幼馴染だったんですか」

「ああ、そうだよ。気付いたら結婚してお前産んでたよ」

 そんな話、初めて聞いた。幼い頃に興味本位で聞いていたかもしれないが、どちらにせよ記憶に無い。



「お前が産まれたときは、アタシに似ててなあ、こらあアタシに似た美人に育つべーって思ってたらあ、大正解だわ」

 半分くらいビンタみたいな勢いで、両手で両頬をベシベシされる。ババアは笑っているが、孫は何気に痛い。

 なるほど、自分が父親に似ているのは、その母親であるばあちゃんに似ているからか、と納得した。

 

 なぜ、要らぬところまで似てしまったのか。

 先ほど忘れたはずの記憶がフラッシュバックする。



 そうか。そうかそうか。

 そういう事だったのか。

 なぜ自分は月岡家に生まれてしまったのだろうか。

 なぜ、こっちの血のほうが濃く出てしまったのだろうか。

 悲しいかな。

 あるときに、主に言われたことを思い出す。



 ──絶望的な貧乳──



 絶望的とは、このことも含めてなのか。

 

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