第192話 こうしたら温かいですね

 コンディショナーを馴染ませるのに数分。4月とはいえ肌寒い。だが今日は面倒臭がって湯船を沸かしていない。

 美冬の耳がピクピクと顔にあたってくすぐったい。

 加えて、尻尾がわさわさと動いて色々と当たるのもくすぐったい。

 

 ふと美冬が振り向く。 

 視線が上下して、何かを察したような顔をした。

「ご主人様って尻尾で触られるのが性癖なんですか?」

「そういうわけじゃ……」

 美冬がにやぁっと嫌な笑顔になる。

「えー、じゃあ何で?」

「いや触られたら否応でも……」

「前にショタ化したときも尻尾でこうなってましたよね」

「見ないでよ恥ずかしいから」

「何を今更恥ずかしがってるんですかあ」

 

 美冬が椅子から降りて、進に跨がる。

「コンディショナー馴染むまでまだ少しかかりますよね。でもちょっと寒いですし」

 それらしい口実で抱き着いて、いたずらっぽく笑う。

「こうしたら温かいですね」

「いや暑苦しい」

「じゃぁあ……このまま一緒に熱くなっちゃいます?」

 

 美冬の舌が唇に当たる

 

「冗談ですよ」

 

 そして小馬鹿にしたように笑って、立ち上がって、まだ馴染んでいないコンディショナーをシャワーで落とす。

 完全に誂われた進は、一体どんな感情を抱けばいいのか自身ですらわからない。

 遊ばれているのか試されているのか。

 

「おさきでーす」

 

 そして哀れな少年を一人おいて、美冬は颯爽と風呂から出ていってしまった。

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