第157話 友達は画面の奥

「なーんも思い浮かばない……」

 かれこれ1時間以上もショッピングモールを歩き回ったところで、出た結論はこれだった。

 本日は2月9日。進の誕生日である。なのでプレゼントを探して、美冬と朝乃の二人がこうして買い物に来ている。

 しかし、今更になって彼が何を欲しがっているのか、そもそも欲しがっているモノがあるかすらわからない。


「もうさ、みふちゃんごとあげれば?」

「それとこれとはまた別ですよ」

 もし仮に「プレゼントは美冬です。食え」とでも言ってみようものなら、凄まじい「えぇ……」という残念な目を向けられるであろう事は明白である。

 

「みふちゃんは誕生日に進から何貰ったの?」

「お洋服とか魔法のカードとか」

「魔法のカード?」

「コンビニで、3000円払うともらえる不思議なカードで、これがあればタダで10連ガチャが引けるんですよね」

「それでいいんだ」

「大事なのは気持ちですよ、気持ち。モノじゃなくて。貰うという事実がうれしいんですよ」


 正直、何も要らない。欲しいものはあるが他人に買ってもらう程のものでもない。

 かと言って貰わないのも寂しいし、あげる側からしても何もあげないと言うのは非常に居心地が悪い。


 誕生日、これまた実は微妙に面倒なイベントだ。


「だからと言って適当なやつを渡すって言うのも、なんか違うじゃないですか」

「うん……。あ、時計とかは? 5、6千円くらいのやつ」

「いま、美冬のお父さんの6万円のおさがり付けてるんで。プロトレック。たぶんあげても喜ばれないですよ」

「あ、みふパパのおさがりなんだ」

 美冬の両親も、進に対して手厚い。


「ロードスターの模型とかは? 進、ロードスター好きでしょ」

「うーん最近はマツダ3辺りにご執心らしいんですけど……。でもそれでいいかもですね。おもちゃ屋みたいなのありましたっけ、ここ」


 とりあえず通路脇にある案内板で確認して、どこにでもある玩具量販店があったのでそこに向かった。


 †


「……、なにが良いですかね……」

 例の玩具量販店、その自動車コーナー来てみて気づく。

 店に並ぶのは、手のひらサイズで子供から大人までお馴染みの、50年以上の歴史を持つトミカが殆どで、それ以外だと家では持て余しそうなラジコンとかばかりだ。

「ラジコン買っても遊べるほどウチは広くないですし……」

「ていうかNDしか売ってないけど、進って何が好きなの?」

「あーそういえば何が好きなんでしょう……」

「みふちゃんは?」

「美冬は~NC。顔が可愛くて好き──」

「あ、みて、S13! へえ、こんな古いのもあるんだね、すごいなあ」

 朝乃の自由人が突如発動し、あの緑色のペイントで見慣れた、角ばったシルビアを発見する。

「魔導庁のシルビアも最初はこれだったんだって。今はS15だけど、中身だけ乗り換えていったらしいよ」

「あの車の妖の性質ってよくわかんないです。中身だけ乗り換えるってそんな便利な……」

「ね~。アリス居ないかなぁ……。ラン子はもう廃盤になっちゃってるし」

 いくら棚の中をさがしてもGSは見当たらない。

 

 結局、ここに来ても悩んだ。そもそも誕生日に渡すモノが500円で良いのだろうか、という疑問。友人同士とかであれば駄菓子一つ程度で良いのだろうが、美冬にとって進はれっきとしたあるじであり、そして美冬は進の自称『嫁』である。つまり、嫁としての面目が無い。


「んんんん……。そもそもご主人様っておもちゃに興味示すような人でも無かったような気がするんですよね……。昔から、お部屋に何も無かったですし……」

「ああそれはね、進が欲しがらなかったというより、親が与えなかったって感じかな……」

「へ──、そうだったん……ですか」

 朝乃は、うん、と頷いた。

「なんで、ですか……? 確かに、ご両親は厳しい方々だとは思いますけれども……」

「なんでだろうね。我儘な子に育ってほしくなかったから……とか? 私も必要なモノ以外買ってくれなかったし、今考えても厳しすぎたなあとは思う。親の心、子知らずってやつかなあ」

 姉からしても不憫だよ、とから笑いする。


「進の場合は、ずっと稽古漬けで友達と遊ぶ時間も無かったから仕方ないと言えばそうなのかも。でも、それならみふちゃんも同じでしょ?」

「いえ、美冬は稽古終わって帰ったらずっと漫画読んでアニメ見てゲームしてましたよ? おかげで友達は画面の奥ですけど、それなりに自由でした」

「そ、そっか……」

 どこか可哀そうな生物を見る目が朝乃から向けられた。

 美冬からすれば、他者と関わらないことで自分にとって無害な時間と空間を構築出来て、非常に快適だったのだが。

「ん~欲を言えば、24時間ご主人様と一緒に居れたらよかったのになあ~とは思いますけど」

 そうすれば、唯一感じる寂しさも埋められていたのかもしれない、とか思いつつ。


 兎に角、今は昔話よりも進のプレゼントを決めるのが最優先だ。

 彼が喜びそうで、嫁があげるのに面目が立つモノを。そして、ただでさえ狭い家の面積を占領しないものを。

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