第162話 最早お母さん

 そしてついに来てしまった。

 猫カフェ。

 

 しかも、ケント高千穂と。男子高校生二人で。


 進は文字通り体中猫まみれになって、非常に天国な事になっている。

 そして、それを面白がってケントは笑いながらスマホで写真を撮りまくっているのだ。


 さて、事の発端は数日前のとある電話からなる。


 ある日、ケントから進に電話があり、内容は、猫妖怪である霞の扱いに困っているのだという。一応、妖怪であり使い魔であるからある程度言う事は聞くものの、やはり根が猫なのでどうにも扱いが上手く行かないという。

 忍耐力とかそういった面で。


 そこでどうしたものか、と進に相談があったところ、適当に猫カフェでも行って猫の生態でも研究すれば、と冗談半分に答えたのだ。

 そしたら、相談内容とは別として、猫カフェに行きたいとケントが騒ぎ出し、今に至る。


「進は中々動物に好かれるね」

「そー言われるとそんな気がする」

 両手両足頭の上に猫を抱えつつ、モフみの天国で極楽の顔をしながら答えた。

 普段味わうそれと全く違ったしなやかさがある。


 対するケントの方は、チュールを吸っている一匹のみである。


「この間の話だけど、珍しい。ケントが使い魔の事で手こずるって」

「珍しいと言うよりも、他の使い魔はみんな聞き分けが良くて困らなかった、という感じかな」

「あー、葵さんとか最早お母さんか……。あとは狼と……」

「鷹と鎌鼬」

「使い魔同士で仲悪いみたいなの起きない?」

「それは無さそうだけど、霞は狼の事が苦手な感じはするよ。多分、厳しいからだろうね」

「大変そう」

「あとは鎌鼬がどうにもヤキモチ焼くらしくて、霞が来てから暫く機嫌が悪い」

「うわ、本当に大変そう」

「これに関しては進の方が大変そうだと思うけどね」

「……そんなことは無い」

 一匹の猫を撫でていると、隣の猫が手を奪いに来る。

 

「一応、平等に接して居るつもりなんだけどね」

「それじゃあ逆効果じゃないか?」

「どうして」

「みんな特別扱いされたいし」

「……はあ?」

 無理なのはわかってるけどさ、と言いながら手近にいた猫を抱き上げて、腹を吸う。


「それに今は、霞に一番力を入れてるんだから、仕方ないとはいえ平等とは程遠いんじゃないかな?」

「その通りだし、それが悩みの種でもあったりするんだ。でもそれがわからない奴でもないだろう、鎌鼬アイツも」

「わかってると、割り切れるとは違うでしょ」

「……確かに」

 かと言ってどうすれば良いのか。


「なんかごめん、偉そうな事言って」

「いや、良いんだ。言われないと気付かない」


 本当に、偉そうな事を言う進こそ、美冬にしょっちゅうブチギレられて、いつ刺されてもおかしくない程だ。

 ただそれでも美冬は何だかんだ許してくれて、その優しさに甘えている節が存分にある。


「ところで進、君、本当に動物に好かれるんだね」

「うん?」

 くどくど考えているうちに、進は猫で完全に包まれ、まるでダルマのようになっていた。

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