第118話 とりあえず風呂入ったら?

 日付は飛んで、1月3日の夜。

 午後9時過ぎ。

 部屋の中で、いつも以上に時間がかかった召喚の魔法が終わり、銀髪ケモミミ少女が白と赤の光から解放された。

「やけに重いと思ったら何その荷物」

 お帰りよりも先に疑問が沸いた。

 ただでさえ魔力消費も激しくひどく疲れる召喚術。たった一匹の狐を召喚するだけでも実はかなり体力を削るのに、その上で荷物まで多いとなるともっと疲れる。

 美冬の荷物は、里帰りの際に持って行ったスーツケースに加えて、段ボール箱を両手に抱えている。

「ばあちゃんに持ってけって渡されたんですよ」

 美冬は言いながら段ボールをその場に置いた。

「それでわざわざこっちに持ってきたんだ」

「ご主人様にって持たされたんですよ」

「ぇぇ……」

 美冬のばあちゃんは、アグレッシブで強烈だがヤケにまめな狐だ。

 その中身はあとで確認するとして、先にすべきは美冬の介抱か。

 一時帰宅はあったものの、およそ1週間ぶりに帰宅をして「やっと帰ってきた……」とその場に座り、四つん這いになっていつもの定位置のローテーブルの場所に座り込む。

 実家は仙台なのに、この家について「帰ってきた」なんて言うのだから、美冬のホームはこっちに移ったということか。


「あっ……座ったら動きたくなくなる……。でもお風呂入って歯磨かなきゃ……」

 ローテーブルにべったり突っ伏して、言動とは真逆にここから動かない固い意思を体現する。

「あ、ただいまです……」

「いまさらかい。おかえり」

 進も、彼女の向かいのいつもの定位置に座った。

「お茶でも淹れようか」

 進が聞いても、美冬は「お構いなく」と断る。

「それより……代わりにお風呂入ってきてくれませんか……」

「いや、俺が入ったところでみふが入ったことにはならないから」

「はぁぁぁぁ……動きたくない」

相当疲れている。およそ一週間、年末年始は特に忙しい月岡家の娘は休みなくずっと動き回っていた。

「今年の妖怪連中の集まりはどうだった?」

「例のごとく大荒れですよ……録画してネットにあげたらバズること間違いなしですから」

 疲れている最大の原因はこれか。

 美冬は真面目な性格ゆえに、何かイベントがあればそれだけで神経をすり減らしてしまう。

「とりあえず風呂入ったら?」

「そうしたいのはやまやまなんですけど……動きたくないんです」


 察しろ、という視線が向けられている。

 べたっと突っ伏したまま、目線だけは向ける。

 察したうえで、適切な行動をしろと言う暗示である。


 察した進は、とりあえず立ち上がって美冬の背後に立ち、彼女のわきの下を抱えて引きずり出す。

 そのままお姫様抱っこの要領で抱き上げて、風呂までデリバリー。

 だが、途中で問題が発覚した。

 美冬の体が横になっているせいで、このままでは廊下に出られない。

「あ、ねえ、みふ、悪いんだけど……」

 と話しかけて彼女の顔を見ると、先日と同じく目がハートになっていた。

「みふ、最近、目のバリエーション増えたね……」

「はい?」

「とにかくさ、ここ、通れないからこっから先は歩いてもらっていい?」

「へ? 嫌ですよ……? 死ぬまで降りませんから」

 美冬は彼の服を掴んだが、一方の進はこのまま落としてやろうかとさえ思った。

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